業績が悪いわけではないのに人員削減を行う、黒字リストラをする企業が目立ち始めました。
有名どころでは、パナソニックHDや三菱電機、ソニーグループなどが人員削減を発表しています。
IR(投資家向広報)を見ると、黒字リストラの理由として、生産性向上や年齢構成比の改善などが挙げられていますが、果たして、期待した効果を得ることはできるのでしょうか?
実は効率性を高める目的で行われるリストラは、財務状況の悪化によって行われるリストラよりも、ダメージが大きいことが分かっています。
黒字リストラを行う理由
そもそも、なぜ企業は黒字なのにリストラを行うのでしょうか?
その理由は企業によってさまざまですが、主に次のようなものが挙げられます。
1. 将来の利益を守るため
黒字でも、売上成長が鈍っていたり、利益率が下がり始めていたりすると、企業は早めに固定費を下げようとします。人件費は大きな固定費なので、将来の悪化に備えて人員削減をするのです。
2. 株主への説明
上場企業の場合、決算が黒字なだけでは不十分です。なぜなら、株主から「もっと資本効率を高めろ」「成長分野に資金を回せ」と求められるからです。このような場合に短期的な利益を向上する手段としてリストラが使われやすいです。
3. 事業の入れ替え
会社全体は黒字でも、ある部署や事業だけは赤字、または成長見込みが低いことがあります。そこで儲かっている事業に人や資金を集中させるために、別の部門を縮小します。
たとえば、旧来型の製品部門を減らして、AI、クラウド、半導体、海外事業などに投資する、といった形です。
4. 業務効率化・自動化
IT化やAI化によって、以前ほど人手が必要なくなることがあります。黒字企業ほど新技術に投資する余力があるため、結果として人員削減が起きる場合もあります。
5. 合併・買収後の重複削減
会社を買収したり合併すると、経理、人事などの間接部門で役割が重なることがあります。会社全体は黒字でも、重複コストを減らすためにリストラが行われます。
6. 今の黒字が一時的なものである可能性
企業は現在の決算だけでなく、数年先の市場環境を見ています。景気後退、為替、金利上昇、競争激化、原材料費の上昇などを見込んで、先に人員を絞ることがあります。
7. 人件費カーブを下げるため
日本企業では、年功的な賃金体系が残っている会社も多く、年齢が上がるほど給与が高くなりがちです。黒字でも、将来の利益率を考えると、企業は高コスト層を圧縮したくなることがあります。
特に対象になりやすいのは、40代後半から50代以上の管理職・準管理職層です。ポスト不足を解消する狙いもあります。
人員削減によって利益や生産性は改善されるのか?
ところで、リストラによって人員を削減することで、本当に上記のようなメリットを得ることはできるのでしょうか?
それを検証したルーヴェン・カトリック大学などの研究チームによる調査があります。
この調査では社員数の3%以上を削減した企業の、生産性と財務指標を分析しています。
リストラを行っている最中は悪影響が出る
データを分析して分かったことは、リストラの真っ最中は、生産性も財務パフォーマンスも落ちるということです。
具体的には次のようになっています。
- 労働生産性:約9.1%低下
- 資本生産性:約14.9%低下
- EBITDAマージン:約1.9ポイント低下
- 利益率:約2.4ポイント低下
なぜこのようにパフォーマンスが悪化するかというと、社内の混乱や、リストラ費用の負担などが発生するからです。
また、収益性が下がる理由として、リストラをしても平均賃金は変化しないことが挙げられます。つまり、生産性は落ちるのに、コスト圧縮効果は出ないため、EBITDAマージンや利益率が低下するのです。
リストラ完了後も効果は出ない
リストラを進めている最中は社内が混乱しますから、効率性が低下するのはある意味当然かもしれません。
ではリストラが完了すれば、企業のパフォーマンスは改善するのでしょうか?
データは以下の通りです。
- 労働生産性:約8.5%低下
- 資本生産性:約12.0%低下
- EBITDAマージン:約1.7ポイント低下
- 利益率:約1.0ポイント低下
ほとんどのデータが低下していますが、統計的に有意ではありません。
つまり、リストラの前後で生産性も財務パフォーマンスも、変化しないということです。
これは、業績悪化への対応のためにリストラした企業だけのデータではありません。
効率性の向上を目指してリストラを行った企業であっても、リストラする前と比べて変化は見られませんでした。
なぜリストラは逆効果なのか?
なぜ効率性を高めるためにリストラを行っても、効果が得られないのでしょうか?
それは人を減らしても、ビジネスモデルや組織能力が自動的に改善するわけではないからです。
それどころか、目に見えない資産が失われて、企業が弱くなってしまうことさえあります。
効率性の向上を目指したはずが「全要素生産性」が低下
労働や資本などの投入量だけでは説明できない、企業の生産効率を表す指標に「TFP」というものがあります。これは「Total Factor Productivity」の略で、日本語では「全要素生産性」と呼ばれます。
同じ人数・同じ設備を使っていても、企業によって成果は違います。その差を生む要因、たとえば 技術力、組織運営、従業員の熟練度、管理の質、業務プロセスの効率性 などをまとめて捉えるのがTFPです。
表面的なデータは悪くないのに、成長しない企業はTFPが悪いことが多いです。なぜなら企業の強さを決めるのは、こうした目には見えにくい社員の暗黙知だからです。
今回の分析でも、効率性の向上を目指したリストラによって、TFPが約15.9%低下することが分かりました。
赤字リストラではTFPは低下しない
ちなみに、財務状況の悪化によるリストラでは、TFPは低下しないことが分かっています。
なぜ効率性を高めようとしたときだけTFPが低下するのでしょうか?
それは社員の受け止め方の違いにあります。
財務の悪化によるリストラは「市場環境が悪いから仕方ない」と思ってもらいやすいです。なので残った社員も「辞めていった人たちの分まで頑張るぞ」となります。
しかし、効率性向上を目的にした人員削減は「経営側の都合による身勝手な判断」と受け止められやすいのです。
それにより、会社への信頼や士気が下がってしまうのです。
このような状態になると、それまでボランティア精神で行っていた、担当外の仕事や部門間の調整をしなくなります。
企業というのはこうした目に見えない仕事によって支えられている部分が大きいですから、それをする人が減ることでTFPが低下してしまうということです。
それでも経営者がリストラをしてしまうのはなぜ?
黒字リストラは過去にも複数の企業で行われてきました。そして、思ったほどの効果が得られていないサンプルが大量にあります。
それでも経営者は黒字リストラを行います。なぜでしょう?
それは、人件費削減は数字としての効果が見えやすいのに対し、TFP低下のような副作用は見えにくいからです。
「何人減らせば年間コストがいくら下がるか」は比較的計算しやすいですが、残った従業員の士気低下、社内ノウハウの喪失、調整コストの増加は事前に数値化しにくいものです。
そのため、コスト削減は過大評価され、副作用は過小評価されやすくなるバイアスがかかるのです。それによって経営判断を間違えてしまうということです。
また上場企業の経営者の多くはオーナーではなく、サラリーマンですから、株主からの短期的な成果を求めるプレッシャーも受けます。
このプレッシャーにより、即効性のある施策を選んでしまうということもあります。
しかし、長期的に見れば黒字リストラの効果はマイナスとなる可能性のほうが高いです。
企業の大小にかかわらず、リストラを行う際には、社員のモチベーションのような目に見えない資産がどれだけ失われるかを、正確に見積もる必要があります。
- T Goesaert, M Heinz, et al. (2015).Downsizing and firm performance: evidence from German firm data.

