優秀な経営者は、とてもよく勉強をしています。
ソフトバンクグループの孫正義社長は留学時代、風呂でもトイレでも寝ているとき以外はずっと勉強していたと語っています。
世界一の投資家といわれる、バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット会長も、毎日5~6時間は読書をするといわれています。
もちろん、日々のビジネスの中で体験しながら学んだことこそ、身に付きやすいのは事実です。
しかし、それでは学べることに限りがありますし、体系的に勉強したほうが効率的なこともあります。それどころか勉強していなかったせいで、騙されたり、チャンスを失うこともあります。
ですから企業規模に限らず、というより中小企業の経営者こそ、座学による勉強が大切なのです。
とはいえ、何を勉強するべきか判断しかねるという人もいるかと思います。
そのような場合は、金融(ファイナンス)とソーシャル・スキルを勉強してみてはどうでしょうか。
経営者がこれら2つの知識を持っている企業は、業績が良くなりやすいことが研究で判明しています。
1. 金融リテラシー
今さら説明するまでもないかもしれませんが、金融とはその名の通り、お金の融通をすることです。
簡単にいえば、お金が余っている人や組織と、お金を必要としている人や組織のやり取りです。
銀行借入も株式による資金調達も、クラウドファンディングも全て金融です。為替や保険、リースもです。
金融リテラシーが高い、というのはこれらの仕組みや市場環境についての知識があるということです。
経営者の金融リテラシーが高い企業は成長しやすくなります。
経営者の金融リテラシーと企業パフォーマンスの関係
カルタヘナ工科大学のドミンゴ・ガルシア教授らが、310社の中小企業の経営者の金融リテラシーと、企業のパフォーマンスの関係を調べています。
この調査では経営者がどれくらいの金融知識持っているか調べました。具体的には以下の項目を調べています。
- 業界の経済・金融データについて最新情報を持っている
- 経済の動向、および国内外の金融・通貨政策に詳しい
- ベンチャーキャピタルなどの銀行融資以外の資金調達手段の知識がある
- 余剰資金を投資できる金融資産についてよく知っている
- 意思決定に経済・金融情報を利用している
- 有効な財務方針を立てるには担当部門の訓練が重要だと理解している
金融リテラシーの高い経営者はイノベーションを起こす
データを分析したところ、経営者が上記の金融リテラシーを持っている企業ほど、イノベーションが起こりやすいことが分かりました。
新しい製品やサービスを生み出したり、業務プロセスの革新が図られやすかったのです。
なぜかというと、金融リテラシーがあれば、研究開発や新規ビジネスにいくらの投資をすれば、いくらのリターンが得られるかという判断の質が高まるからです。
資金調達も有利になる
さらに金融リテラシーの高い経営者は、資金調達もしやすいことが分かりました。
たとえば、銀行からお金を借りやすいということです。
これは銀行に対し、自社の財務情報をどう説明すれば有利となるか、正しく判断できることが要因です。
また、資金調達手段や、金利、返済方法なども最適なものを選択できます。
このように有利な条件で資金調達できることで、研究開発が円滑に進み、さらにイノベーションが起こりやすくなることも分かっています。
2. ソーシャル・スキル
ソーシャル・スキルとは、相手と良い関係を築いて社会生活を円滑にするための技術です。
ビジネスにおいては、社外のビジネスパートナーと良好な関係をつくり、情報や協力を得ることに役立ちます。
このソーシャル・スキルの能力が高い経営者の会社は業績が良くなりやすいです。
ソーシャル・スキル研修
ハーバード大学とトロント大学の研究チームが、起業家向けのマーケティング研修を行いました。
参加したのは約300人ですが、このうちの半分には追加でソーシャル・スキル研修を受けてもらいました。
この研修では、ビジネス上の対人交流、協力的な会話、明確に質問・説明する方法、連絡先交換やお礼、フォローアップの重要性などが教えられました。
ソーシャル・スキルが利益を19~27%向上させる
その後の各起業家の成果を分析したところ、ソーシャル・スキル研修を受けたグループは次のようなプラスの効果を得ていることが分かりました。
- 研修後に関係を形成した同業者の数が50%多い
- 自分が持っていない強味を持つ相手とつながりやすくなった
- 月次の利益が約19~27%向上した
研修後も1年間にわたり追跡調査していますが、その間もずっと利益の向上効果は継続していました。
ソーシャル・スキルが向上したことで、良い相手から良い助言を得られるネットワークが広がったことが要因です。
勉強が経営者の器を広げる
金融リテラシーもソーシャル・スキルも、一見すると別々の能力のように見えます。
しかし共通しているのは、「より良い判断材料を手に入れる力」だということです。
金融リテラシーがあれば、お金の流れや投資判断を読み違えにくくなります。ソーシャル・スキルがあれば、自分だけでは得られない情報や助言、協力を得やすくなります。
つまり経営者の勉強は、知識を増やして物知りになるためのものではなく、自社の可能性を見誤らないために、判断の精度を上げるためのものなのです。
経営は、毎日が意思決定の連続です。そしてその意思決定の質は、経営者が何を学び、誰とつながり、どれだけ現実を正しく見られるかによって変わります。
だからこそ、忙しい経営者ほど勉強する価値があります。
経営者が「勉強会」と称した集まりに参加するのは危険
ここからは少し話が変わって、注意喚起というか私が経験してきたことなのですが。
経営者の勉強会に呼ばれることがあります。基本的に、そういったものへの参加は断っているのですが、断れないこともあります。
コンサルティングが入っていると言うと、他の経営者も「どんなもんよ?」と興味が沸くのでしょう。
とはいえ、批評するような態度の経営者は少なく、素直に話を聞くという態度の人が多いです。
ちなみに、私は形式ばっていない内輪の勉強会のようなものであっても、抽象的な精神論を話すことには抵抗があります。
なので、具体的にどんな施策が利益につながったか、という具体例を話すようにしています。
去年はインターネットを使って、どのように集客するかという話をよくしました。
今さら新しいことでもないのですが、この話が未だになぜかウケるのです。
いかに、中小企業のIT化が進んでいないか、ということだと思います。このままだと、AIやDXのネタがウケるのは30年後かもしれません。
私に依頼しようとするのは問題
経営者の勉強会で具体的な話をすると、驚かれることが多いです。新鮮なのだと思います。
そして、そのまま「仕事を依頼したい」と言われることもあります。残念ながら競業避止の関係で、受けられないことのほうが多いですが。
ただ、経営者の勉強会で私の話を聞いて、依頼しようと考えてしまうのは少し問題だと思います。
なぜなら、私の話すことの大半はネットで検索すれば、すぐに分かるようなことですし、経営者なら当然知っていなければならないことだからです。
そこに気づかずに、私の話が素晴らしいと感じてしまうのは、勉強会というものに問題があるのではないでしょうか。
経営者の勉強会が危険な理由
経営者の勉強会をいくつか見ていると「もったいないな」と感じます。
せっかく経営者が集まっているのに、「経営とは」といったマインドの話に終始していることが多いからです。
鬼籍に入られましたが、京セラの稲盛和夫氏のような人物が主宰する勉強会であれば、それでも全く問題はないと思います。あれだけの実績を残した経営者の思想に触れれば、得るものがあるでしょう。
しかし、他のメンバーより経営者歴が長いだけの人や、経営コンサルタントが主宰として経営論を語ったり、同世代の仲間で集まって討論したりしている勉強会というのは危ない気がします。
意味のないことをしているのに、成長につながっているような錯覚に陥るのではないでしょうか?
経営者は孤独なうえに、強いプレッシャーも受けます。死にたくなることもあります。そのため、勉強会などの集まりに参加することで、安心感を得ることができるのかもしれません。
しかし、その「安心感」を「成長」と勘違いしてしまうのは、何もしないより危険だと思います。
マインドにフォーカスするとテクニカルなことを軽視する
経営者の勉強会が全てそうだとは言いませんが、マインドにフォーカスしたものが多いです。
マインドにフォーカスすると、テクニカルなことを軽視しがちになります。そのため、ちょっとネットで調べれば分かるようなことさえ、気づけなくなってしまうのです。
マインドにフォーカスした経営者の勉強会に参加することで、大局的に物事を見ているようになったつもりでも、実は視野を狭めているのではないでしょうか。
中小企業にとって即効性のある施策は、テクニカルなことの場合が多いです。
会社が潰れてしまっては「経営の心得」もクソもないのです。
現役の経営者が勉強会で経営論を語り合うのは、プロ野球選手がスイング練習をせずに「野球道とは」と議論しながら、ホームランの本数を増やそうとしているのと同じではないでしょうか?
意味のない課題を出す勉強会
中には「来週までにこの本を読んでレポートを提出するように」と課題を出したり、グループチャットで討論しているような勉強会もあります。
そして、その課題のために忙しくなって、仕事に支障が出ているという本末転倒なパターンもあります。
そもそも、この手の課題もその効果を定量的に検証したものではなく、主宰している人間の単なる思い付きでやっているようなものが多いです。
このタイプの主宰者は、松下村塾の吉田松陰にでもなったかのように、自分を高い位置に置いているので、無駄なことをさせているという認識を持つことができないのです。
彼らはナルシシスト的な性格傾向を持っているといえます。
経営者がこういったものに意味があると感じてしまうのも、不安やプレッシャーにより冷静な判断力を失っているからです。
胡散臭いカルト宗教にハマるのと同じ精神状態になっているのです。
経営コンサルタントにも騙される
せっかく経営者が集まっているなら、もっと具体的かつ即効性のある情報のやり取りをすべきです。
「具体的な話では考える力が身につかない」という人もいますが、こういうタイプとは関係を切ったほうが良いでしょう。
本人に知識がなく、大した答えを持っていないのを、抽象的な内容で誤魔化そうとしているだけなのです。
この手の人間に具体的なアドバイスを求めても「商品パッケージの色を変えましょう」程度のものしか出てきません。しかも、それを実践して効果が出るかも分からないのです。
具体的かつ有効な答えが出せるというのは最低限の水準です。そこにさえ到達していない人間が、師匠の如く「自分の頭で考えなさい」などと誤魔化しているだけの勉強会が非常に多いです。
「〇〇論」という抽象的な話は数式も出て来ませんし、頭を使わなくてもレベルの高いことをしている気分になれます。
しかし、そんなことを繰り返していても会社の業績は伸びません。
それに、そういった勉強会で分かった気になってしまう経営者はコンサルタントにも騙されやすいので注意したほうが良いです。
具体的なアドバイスができないコンサルタントほど、「社長は何をすれば利益が出ると思いますか?」とコーチング的な声掛けで誤魔化そうとするのです。
経営者の読書会とドラッカー
最後にちょっと余談を。
あくまでも私の個人的な考えなので、あまり真に受けないでほしいのですが…
経営者の勉強会などでピーター・F・ドラッカーの本が使われるのを見掛けることがあります。読書会をしていることもあります。
確かにドラッカーは有名な経営学者です。
しかし、彼の著書が経営者の勉強会に適したものかというと疑問です。
経営を勉強するというのは科学として捉えるということだと思うのですが、ドラッカーの本はちょっと違うのではないかと。
経営者の自己啓発のような類ではないでしょうか?
捉え方は人それぞれですし、単に私が無知なだけで、「経営学の基本はドラッカー」というのがアカデミズムの世界ではスタンダードなのかもしれませんが。(その可能性は限りなく低いと思いますが)
少なくとも私が日本語で読んだ文献の範疇でいうと、良いことは言っていますが、実践に引っ張って来るのは難しいのでは?というのが正直な感想です。
『実践する経営者』という著作がある人に対して申し訳ないですが…。
まあ、でも好みの問題なのかもしれません。読みやすいのは間違いないです。
くれぐれも、無駄な勉強会に貴重な時間と労力を使わないよう気をつけてください。
- D García-Pérez-de-Lema, D Ruiz-Palomo, J Di eguez-Soto.Analysing the roles of CEO’s financial literacy and financial constraints on Spanish SMEs technological innovation.
- S Dimitriadis, R Koning.Social Skills Improve Business Performance: Evidence from a Randomized Control Trial with Entrepreneurs in Togo.

