店にとって、常連客はありがたい存在です。
何度も来店してくれるので、売上の見通しが立ちやすくなります。
特に小さな飲食店や個人店にとって、常連客は経営の支えです。
雨の日でも来てくれる人、少し客足が鈍い時期でも顔を出してくれる人、知人を連れてきてくれる人。こうした客は、売上以上の価値を持っています。
また、常連客は店の雰囲気をつくる存在でもあります。
店主やスタッフと自然に会話し、店の空気に馴染んでいる人がいると、新規客から見ても「この店は愛されているのだな」と感じられることがあります。
しかし、常連客が常にメリットをもたらしてくれるとも限りません。
勘違いした常連客の尊大な態度が、他の客の居心地を悪くして売上を減少させたり、スタッフを疲弊させて辞められたりすることもあります。
このように常連客が店をダメにするというのは、決して珍しいものではありません。
飲食店のクチコミを見ても、こうした悪影響が出ている店はたくさん見つかります。
本記事では常連が店をどのようにダメにするのか、そしてその悪影響への対策について解説します。
常連客ほど勘違いしやすい理由
常連客は「自分は特別扱いされるべき存在」と勘違いしやすいです。
サウスカロライナ大学のチェン・ジョウ博士らが、航空会社の乗客の心理を調べた研究があります。
この研究によると、顧客ロイヤルティの高い客、つまり企業やブランドに対して好意を持ち、継続的に利用したり、他社より優先して選んだりする傾向の高い客ほど、特権意識が強い傾向にあることが分かっています。
ここでいう特権意識とは、自分は特別なサービスや優遇を受ける権利があるという心理のことです。
なぜこのような心理を持つかというと、「何度も利用して利益に貢献しているのだから、その見返りとして割引や優先対応をされるのは当然である」という勘違いを起こすからです。
こうした常連客の勘違いは、飲食店や小売店、果てはBtoBビジネスの担当者レベルでも起こるものです。
また、「自分は特別扱いされるべき存在」と勘違いしている常連客ほど、不満を持ちやすくクレームにをつけやすいことも分かっています。
求めるサービス水準が高くなってしまっていることが原因です。
勘違いした常連客の要求はエスカレートする
勘違いした常連客は、店に対してさまざまな要求をするようになります。
- 会計のたびに値引きやサービスを期待する
- 混雑時でも自分の席を優先してほしがる
- 営業時間外の対応を求める
- メニューにないものを作らせる
- スタッフが忙しいときでも長話に付き合わせる
- 自分の苦情だけは特別に扱ってほしいと主張する
こうした要求は、店側にとって負担になります。
特に厄介なのは、常連客の要求が「迷惑行為」として見えにくいことです。
初めて来た客が同じことをすれば、店側も断りやすいでしょう。しかし、長年通ってくれている客の場合、店は強く拒否しにくくなります。
- いつも来てくれているから
- 機嫌を損ねると面倒だから
- 他の常連に悪く言われるかもしれないから
- 売上が落ちるかもしれないから
そう考えて、店は小さな例外を認めます。
しかし、例外は一度認めると、次からは前例になります。前例が増えると、常連客はそれを当然だと感じるようになります。そして、店側が断ったときには「前はやってくれたのに」と不満を持ちます。
そしてさらに理不尽な要求やクレームをつけやすくなるのです。
他の客を遠ざけ、売上を落とす
常連客の勘違い行動は、他の客の居心地や、店への信頼、そして売上に影響します。
飲食店や小売店において、客は商品やサービスだけを見ているわけではありません。店の空気、スタッフの態度、他の客との距離感も含めて、その店を評価しています。
そこで常連客が店の空気を支配していると、他の客の満足度は下がりやすくなります。
たとえば、常連客だけが店員と長く話し込んでいると、他の客は注文や会計を頼みにくくなります。常連客が大きな声で場を仕切ったり、店内を自分の居場所のように扱ったりすると、初めて来た客や、静かに過ごしたい客は居心地の悪さを感じます。
さらに、常連客だけが席を優先されたり、特別な注文を受けてもらったり、多少の迷惑行為を見逃されたりすると、他の客は不公平感を覚えます。
店側にそのつもりがなくても、「この店では常連が優先される」と見えてしまうのです。
多くの客は、不満があってもその場で文句を言いません。ただ静かに来なくなります。
つまり、常連客を大切にしているつもりが、気づかないうちに新規客や控えめな客を遠ざけ、機会損失を発生させてしまうのです。
スタッフの感情労働が増えると辞められる
常連客の過剰な要求を店が許し続けると、スタッフも疲弊します。
スタッフは、本来の接客や調理、会計、清掃だけでも忙しいものです。そこに、特定の常連客への気遣いや例外的な対応が加わると、仕事の負担は増えます。
しかも、その負担はマニュアル化しにくいものです。
- あの人にはこの席を優先する
- あの人の冗談には笑っておく
- あの人が来たら店主を呼ぶ
- あの人の注文は少し特別にする
こうした暗黙の対応は、スタッフに精神的な緊張を強います。新人スタッフにとっては、店の公式ルールよりも常連客の扱いを覚えることのほうが難しくなる場合もあります。
さらに、常連客がスタッフに馴れ馴れしく接したり、説教をしたり、店の運営に口を出したりすると、スタッフは接客以上の感情労働を求められます。これが、長く続けば大きなストレスとなります。
特に現在のような人手不足の人材市場においては、少しでもストレスを感じると、簡単に辞められてしまいます。
最悪の場合、人手不足で店が開けられないという事態を招くことさえあります。
勘違いした常連客への対応
勘違いした常連客が、店の雰囲気を悪くしている場合、どのように対策すれば良いのでしょうか?
まず大切なのは、常連客を一括りにして悪者にしないことです。
店に何度も通ってくれる客は、本来ありがたい存在です。売上を支えてくれるだけでなく、店の雰囲気を温かくしてくれることもあります。良い常連客は、店のルールを理解し、スタッフを尊重し、他の客の邪魔をしません。
問題なのは、常連客そのものではありません。常連客の一部が店を私物化し、店側がそれを止められなくなることです。
そのため、対策としてはまず「常連客を排除すること」ではなく、「常連客との距離感を整えること」から始める必要があります。
店主が毅然とした態度を示す
常連客の悪影響を減らすうえで、最も重要なのは店主の態度です。
常連客がスタッフに過剰な要求をしているとき、他の客が居心地の悪そうな様子を見せているとき、店主が何も言わなければ、その行動は店に認められたものになってしまいます。
注意するときは、感情的になる必要はありません。「それはできません」「その言い方はやめてください」と、店のルールとして淡々と伝えることが重要です。
店主が毅然とした態度を示すことは、スタッフを守ることでもあります。スタッフが安心して働ける店では、接客の質も安定します。逆に、スタッフが常連客の顔色を見ながら働く店では、疲弊が積み重なります。
また、店主の態度は他の客にも伝わります。
常連客が大きな顔をしていても店主が放置している店では、新規客は入りづらさを感じます。一方で、店主がきちんと場を整えている店では、初めて来た客も安心できます。
店の空気を決めるのは、声の大きい常連客ではありません。本来、それを決めるのは店主です。
新規客を増やし、常連に依存しないこと
常連客の勘違いが大きくなる背景には、店側の依存があります。
- この人たちが来なくなったら困る
- 常連に嫌われたら売上が落ちる
- 新しい客が増えないから、今いる常連を失えない
店主がそう感じていると、常連客に対して強く出にくくなります。多少のわがままがあっても、注意できなくなります。スタッフが困っていても、見て見ぬふりをしてしまいます。
この状態を変えるには、新規客を増やす必要があります。新規客が増え、売上の柱が分散すれば、必要な注意をしやすくなります。
新規客を増やすには、初めての人が入りやすい店にすることです。分かりやすいメニュー、入りやすい外観、過度に内輪化しない接客、SNSや地図アプリでの情報整備など、やるべきことは数多くあります。
新規客を増やすより、既存客を維持する労力のほうが圧倒的に少ないのは事実です。しかし、そこから逃げていると売上はどんどん先細っていきます。
最後は出入り禁止も選択肢に入れる
できれば、客との関係は穏やかに整えるのが理想です。
しかし、何度伝えても改善しない場合や、スタッフや他の客に明確な迷惑をかけている場合は、出入り禁止も選択肢に入れるべきです。
特別扱いの要求、暴言、威圧、セクハラ、過度なクレーム、他の客への迷惑行為、スタッフの私生活への干渉。こうした行為を「常連だから」と許してはいけません。
出入り禁止は、感情的な報復ではありません。店を守るための判断です。
一人の客を断ることで、スタッフが安心して働けるようになることがあります。他の客が落ち着いて過ごせるようになることがあります。店主自身が、本来やりたかった店に戻れることもあります。
常連客を大切にすることは、店にとって重要です。しかし、店を壊すほどの常連客まで抱え続ける必要はありません。
常連客との関係は、近すぎても遠すぎてもいけません。感謝はしながらも、ルールは守ってもらう。その線引きが、店を長く続けるためには欠かせないのです。
客を選ぶから、客から選ばれるということを忘れないでください。
- Li, X., Ma, B., & Zhou, C. (2017).Effects of customer loyalty on customer entitlement and voiced complaints.

