「完璧を目指すより、まず終わらせろ」
これは、Facebookの創業者である、マーク・ザッカーバーグが投資家に向けた書簡に書いた言葉です。
原文は「Done is better than perfect」となっています。
この言葉は、新製品や新サービスをとにかく市場に早く出すことの重要性を意味するものと、理解されています。
確かにその意味もありますが、それだけでは本来の意味の3分の1程度しか理解していないことになります。
「完璧を目指すより、まず終わらせろ」の本当の意味
冒頭で説明した通り、「完璧を目指すより、まず終わらせろ」という言葉は、2012年にFacebookがIPO(新規上場)する際に、投資家に向けた書簡に書かれた言葉です。
この書簡の中で、ザッカーバーグは自分たちの仕事の進め方を「The Hacker Way(ハッカーウェイ)」であると説明しました。
ハッカーはハックの-er系ですが、ここでいうハックは、他人のコンピュータに侵入して悪さをするという意味ではありません。何かを効率的に行ったり、工夫して行うという意味です。
Facebookにおける、ハッカーウェイとは、ものづくりを続けながら、少しずつ改善していく姿勢のことです。
ハッカーは、「どんなものでも、もっと良くできるし、これで完成というものはない」と考えます。
また、最初から完璧なものを作ろうとせず、仮説を立て、小さく作り、早く公開し、使われ方や反応から学びます。
この反復を繰り返しながら、良いサービスを作っていくのが、ハッカーウェイです。
そして、この姿勢を忘れないために、Facebookの社内の壁には、「完璧を目指すより、まず終わらせろ」という言葉が書かれていると、書簡の中に書いたのです。
※なぜか私の手元に原文のデータがあるので、該当箇所を引用します。
We have the words “Done is better than perfect” painted on our walls to remind ourselves to always keep shipping.
(私たちは、常にリリースし続けることを忘れないように、壁に「完璧を目指すより、まず終わらせろ」という言葉を描いています。)
リーンスタートアップに通ずる価値観
ここまでの説明から、「完璧を目指すより、まず終わらせろ」が、素早く市場投入することだけを意味するのではないことが分かったと思います。
本来の意味は、仮説に基づき、早い段階で必要最低限の機能を備えた、プロトタイプをリリースし、消費者の反応から学ぶという一連のサイクルが大事である、ということなのです。
このような戦略を「リーンスタートアップ」と呼んだりもします。
そして、この戦略は、Facebook以外の企業でも有効に作用します。
スタートアップ100社の調査
トゥウェンテ大学のライナー・ハームス博士らが、約100社のスタートアップを対象に行った調査があります。
この調査では、CEO(最高経営者)への聞き取りなどを通じ、その企業のリーンスタートアップ能力を測定しました。
具体的には、顧客理解、仮説化、早期の製品投入、その後の検証・学習がどれくらいできているかということです。
そして、それらの能力と、プロジェクトの成功率を比較したところ、正の相関があることが分かったのです。
つまり、顧客の問題を深く理解し、仮説として明確化し、小さくリリースすることを繰り返し、その結果をデータで検証しながら学習するスタートアップほど、成功しやすいということです。
なぜリーンスタートアップ戦略は成功するのか
「完璧を目指すより、まず終わらせろ」というリーンスタートアップ戦略が、他の企業でも有効なのはなぜでしょう?
一番の理由は、大きく失敗する前に、小さな間違いに気づけるからです。
もし、最初から「これは売れるはず」と思って、時間とお金をかけて完成品を作ってしまうと、売れなかったときに大きな損失が出ます。
これに対し、最低限の機能の製品をリリースし、実際の反応やデータを見ながら改善する方法であれば、予算を投入していない初期段階で、顧客との微妙なズレを認識し、簡単に方向修正できます。
たとえるなら、料理を作っている途中で何度も味見をして調整するようなものです。それなら、完成後に「全然おいしくない」となる可能性を下げられます。
「完璧を目指すより、まず終わらせろ」を実践するために必要な5要素
企業が、「完璧を目指すより、まず終わらせろ」という戦略を実践するためには、どうすれば良いのでしょうか?
それには、顧客理解、仮説検証、試行、データ活用、学習を一連の活動として組織に定着させることが重要です。
単にMVP(実用最小限の製品)を作る、顧客に話を聞くといった個別の施策ではなく、事業開発の前提を明確にし、小さく試し、結果から次の判断につなげる仕組みを持つ必要があります。
「完璧を目指すより、まず終わらせろ」を実践するために必要な5要素について、分かりやすく説明します。
1. 顧客の課題を深く理解する
まず必要なのは、顧客が本当に困っていることを把握することです。企業側の思い込みだけで製品やサービスを作るのではなく、顧客の行動、利用場面、既存の不満を丁寧に確認します。これにより、解決すべき課題を見誤るリスクを下げられます。
2. 事業上の思い込みを、検証できる仮説として整理
次に、製品価値、顧客ニーズ、価格、販売方法などに関する前提を、検証できる仮説として整理します。
「売れるはず」「必要とされるはず」といった考えで進めてはいけません。「10社に提案して3社が有料利用したいと言えば、ニーズ有と判断する」といったように、何を確認できれば次に進むのかを明確にする必要があります。
3. 小さな試行を繰り返す
仮説を立てた後は、大きな投資をする前に小さく試します。ランディングページ、簡易プロトタイプ、限定的なテスト販売などを通じて、顧客の反応を確認します。一度の試行で終わらせず、反復することが重要です。
4. データに基づいて判断する
試行の結果を感覚や好意的なコメントだけで判断してはいけません。登録率、購入意向、継続率、利用頻度、支払い意思など、顧客の実際の行動を示す指標を用いて評価します。これにより、意思決定の偏りを抑えることができます。
5. 学習を次の行動に反映する
得られた結果をもとに、製品、顧客セグメント、価格、提供方法を見直します。仮説が外れた場合も失敗として終わらせず、何を変えるべきかを明確にしなければなりません。学習を次の実験や意思決定に反映できる企業ほど、プロジェクトの成功率を高めやすくなります。
「早く作ること」ではなく、「早く学び始めること」が大事
勘違いしてはいけないことは「完璧を目指すより、まず終わらせろ」とは、無責任の次々と新製品を投入し、「どれかは当たるだろう」というスタンスを意味するものではないということです。
最初のリリースはゴールではなく、学習の出発点として捉える必要があります。
小さく出し、反応を見て、仮説を修正し、また改善する。
この循環を回せる企業ほど、失敗を大きくする前に軌道修正できます。
この言葉の本質は「早く作ること」ではなく、「早く学び始めること」にあるのです。
- Mark Zuckerberg. (2012).Zuckerberg Letter to Shareholders in Advance of IPO
- R Harms & M Schwery. (2019).Lean Startup: Operationalizing Lean Startup Capability and testing its performance implications

