赤字経営に陥った会社がまず考えるのは、コスト削減、人員整理、不採算事業の整理、借入金の見直しなどです。
これらは、いずれも会社を立て直すための代表的な手段です。
しかし、実際に同じような施策を行っても、回復する会社と、さらに苦境に追い込まれる会社があります。
なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか?
その答えは「どれくらいの強さで、どの方向に向かって、いつ実行したか」にあります。
同じ施策を行っても、これらの違いによって成否が別れるのです。
今回は、実際のデータをもとに、赤字経営からの立て直しに成功した会社と、失敗した会社の違いについて説明します。
赤字や債務超過に陥った166社の比較
過去10年に財務的困難に陥った会社を分析した、クランフィールド大学のスディ・スダルサナム教授らの研究があります。
この研究では、赤字や債務超過に陥った166社を対象に、どのような再建策を採り、その結果どうなったかを調べています。
そこから分かったことは、立て直しに成功した会社も、失敗した会社も、採用している再建策に大きな違いはなかったことです。
どちらも、コスト削減、資産売却、設備投資、M&A、債務の見直しなど、かなり似た施策を行っていました。
つまり、どの手法を採用するかが、再建の成否を分けたのではないということです。
赤字からの立て直しの成否を分けたもの
では、何が赤字からの立て直しの成否を分けたのでしょうか?
それは、強度と方向性です。
1. 強度の違い
立て直しに成功した会社のほうが、大規模に再建策を実施したと思うかもしれません。しかし、逆でした。
失敗した会社の方が、コスト削減や組織整理などをより強力に押し進めていたのです。また、借入の見直しなども積極的に行っていました。
それでも、立て直すことができなかったのはなぜでしょうか?
それは、強いコスト削減や組織整理によって、将来の収益源まで失ってしまったからです。一時的な支出は抑えられましたが、同時に収入が減ってしまったので、赤字が拡大していくだけだったのです。
これに対し、立て直しに成功した会社は、必要な整理を行いながらも、将来の利益を生む部分まで削るようなことはせず、次の成長につながる余力を残していたのです。
2. 方向性の違い
最も大きな違いは、再建策がどの方向に向かっていたかでした。
立て直しに成功した会社は、初期の止血後に、設備投資や買収などの積極攻勢に出ました。市場開拓や成長に向かう戦略へ移行したのです。
これは、ただ支出を減らすのではなく、再び利益を生み出す仕組みを作ろうとする動きです。
これに対して、失敗した会社は、いつまでも内部の整理や財務上の延命策に重点を置き続けました。
そのため、顧客を増やしたり、商品力を高めたり、市場での競争力を回復したりすることはできなかったのです。
つまり、立て直しに成功する会社と失敗する会社の違いは、早い段階で成長戦略に舵を切ることができるかどうかの違いということです。
施策ごとのタイミング。早くても遅くてもダメ
私の元へは、赤字経営の立て直しに関するコンサルティングの依頼もよくあるのですが、「もっと早く相談してくれれば…」というケースは多いです。
それだけではなく、「なぜその施策を先にやってしまったのか…」ということもあります。
赤字経営からの立て直しには、施策ごとのタイミングも重要なのです。早くても、遅くてもダメなことがあります。
このことはデータからも分かっています。
ノースダコタ州立大学のチャンチャイ・タンポン教授らが、約100社の財務悪化企業について行った調査があります。
この調査によると、立て直しに成功した会社と失敗した会社には、施策を行うタイミングに関して、次のような違いがあることが分かっています。
1. 再建策への着手が遅れると下方スパイラルに陥る
再建策への着手が遅い会社ほど、立て直せる確率が低いことが判明しています。
これは時間が経つほどに、資金不足、社内の混乱、関係先からの信頼低下といった事象が相互に悪影響を及ぼし、さらに赤字が拡大する「下方スパイラル」に陥るためです。
また、業績不振が続くと、経営者の心理的ストレスが高まり、意思決定の質が下がることもマイナスとなります。
これに対し、早期に手を打つ会社は、「社内オペレーション・業績の改善」「資本市場からの支持回復」という好循環を生みやすいことも分かっています。
2. 人員削減は早期に行っても効果ナシ
赤字化や財務状況の悪化の兆候が出た初期段階で、早めに手を打つことが重要ですが、全ての施策にそれが当てはまるわけではありません。
早期の事業売却と市場撤退は、再建の成功率を高めることが確認されています。これは、不採算事業や競争力の弱い市場から早く撤退することで、経営資源をより有望な事業へ集中できるためです。
一方で、早期の人員削減は、有意な効果を示しませんでした。
これは、人員削減が短期的にはコスト削減になるものの、競争力や収益構造そのものを改善するとは限らないためです。
それどころか、従業員の士気低下や、知識や技能の流出、サービス品質の悪化などを招く可能性もあるため、初期段階で人員削減を行うと、逆効果となる可能性さえあります。
また、後期段階での人員削減も、効果が期待できるケースは限定的であることも分かっています。
3. 遅れると「やらないよりはマシ」にはならない
赤字経営への対応が遅れても、「何もしないよりはマシ」と思う経営者もいるかもしれません。
しかし、タイミングを逸した対策は、全体として逆効果となりやすいことが分かっています。
たとえば、財務状態が悪化してから、3年目、4年目での事業売却は、立て直しの成功率を低下させます。
これは、早期の事業売却が「選択と集中」のための能動的なものであるのに対し、後期の事業売却は資金繰りに追われた苦し紛れの売却になりやすいからです。
そのため、売却条件も不利になり、残された事業の再建余力も小さくなってしまうのです。
また、遅れたタイミングでの市場撤退も、損失の拡大を止める効果よりも、撤退コストや信用低下の影響が大きくなる可能性があります。
赤字経営の怖さは、損失が出ることではない
赤字経営の怖さは、損失が出ることそのものではありません。
本当に怖いのは、赤字が続くことで、会社の選択肢が失われていくことです。
資金に余裕があるうちは、撤退する事業も、残す人材も、投資すべき分野も自分たちで選べます。
しかし、対応が遅れるほど、売れる資産は安く買い叩かれ、残したい人材から先に離れ、金融機関や取引先との交渉力も弱くなっていきます。
そのため、会社に価値が残っている段階で、どの事業で再び利益を出すのかを決めることが重要なのです。
早い段階で不採算事業から撤退し、価格転嫁、商品力の向上、人材のレベルアップ、成長分野への投資を同時に進められるかどうか。
ここに、赤字から立ち直る会社と、延命するだけの会社の決定的な差があるのです。
- S. Sudarsanam, J. Lai. (2001).Corporate Financial Distress and Turnaround Strategies: An Empirical Analysis.
- C. Tangpong, M. Abebe, Z. Li. (2015).A Temporal Approach to Retrenchment and Successful Turnaround in Declining Firms.

