業績を伸ばしたいとき、多くの経営者は「何に投資するか」を考えます。
新しい設備を入れる、システムを導入する、人を採用する、店舗や拠点を増やす。これらはどれも必要な取り組みです。
しかし、同じような設備を持ち、同じようなシステムを使っていても、企業によって業績は大きく異なります。なぜでしょうか?
その答えは「知識」の差にあります。
ここでいう知識とは、ただの情報やデータではありません。顧客を深く理解する力、現場で培われた改善ノウハウ、経験を組織全体で活かす仕組みなどを含みます。
これらの「知識資源」は機械などの有形資産よりも、企業業績に与える影響が大きいことが複数の調査で判明しています。
知識資源とは何か
知識資源とは、企業の中に蓄積され、共有された知識や情報のことです。
知識資源は、大きく「形式知」と「暗黙知」に分けて考えることができます。
「形式知」は言葉や資料にしやすい知識です。たとえば、業務マニュアル、営業資料、顧客対応の記録、社内のデータベース、特許などです。これらは文書化しやすく、社内で共有しやすい知識です。
「暗黙知」は言葉にしにくい知識です。たとえば、ベテラン社員の判断力、顧客との信頼関係のつくり方、現場での勘所、チームで問題を解決する力などです。これらは簡単にマニュアル化できませんが、企業の強みとして非常に重要です。
ポイントは個人が持っている知識を、会社全体で活かせる状態にすることです。
どれほど優れた社員がいても、その人だけがノウハウを持っている状態では、会社全体の力にはなりません。その人が異動したり退職したりすると、知識も失われてしまいます。
一方で、知識が共有され、業務の仕組みや教育に組み込まれていれば、会社全体の成果につながります。
研究でも示された、知識資源と企業業績の強い関係
経営戦略論の研究においても、知識が最も強く企業業績と関係することが示されています。
デンバー大学のドナルド・D・バーグ博士らが約30年分、248,136件の企業データを分析して、企業業績に最も影響を与える経営資源は何かを特定した研究があります。
この研究では、経営資源を大きく以下の4つに分けています。
- 知識資源
- 有形資産(ex建物や機械)
- 関係資源(ex他社とのつながり)
- その他の無形資源(exブランド)
※上記のうち有形資産以外を合わせたものが一般に「知的資産(Intellectual assets)」と呼ばれるものです。本研究では知識資源「(Knowledge resources)」にフォーカスしているため、紛らわしいですが別物と考えてください。
分析の結果、4つの中で知識資源が最も企業業績と正の相関があることが分かりました。
特に成長率との関連が大きく、企業の拡大や発展を考えるうえで、知識資源が重要な意味を持つことが示されています。
なぜ知識資源は有形資産を上回るのか
知識は簡単に真似できない
なぜ知識資源の影響が大きいかというと、競合他社が簡単に真似できないからです。
機械やシステムは資金があれば他社も導入できます。しかし、現場で何年もかけて身につけたノウハウや、顧客を理解する力、組織の中で育った改善文化は簡単には真似できません。
たとえば、ある会社の接客が非常に優れているとしても、その理由はマニュアルだけではないかもしれません。お客様の表情を見て声をかけるタイミング、クレームを受けたときの対応、店舗内での情報共有の仕方など、細かい知識や経験が積み重なっている可能性があります。
こうした知識は、外から見えにくく、すぐにはコピーできません。そのため、企業の長期的な強みになりやすいのです。
知識資源は他の資源の価値を引き出す
知識資源は他の資源を活かす力でもあります。
同じ機械を使っていても、段取りのよい現場とそうでない現場では生産性が変わります。同じ顧客データを持っていても、そこから顧客のニーズを読み取れる会社と読み取れない会社では、受注につながる可能性が変わります。
システムも同じです。高機能なシステムを導入しても、業務に合った使い方ができなければ、かえって現場の負担が増えることもあります。反対に、自社の業務をよく理解し、必要な情報を整理しながら使えばシステムは大きな成果を生みます。
つまり、設備やデータは、それだけでは十分な価値を発揮せず、それらを使いこなす知識があって初めて、企業業績に結びつくということです。
企業が知識資源を強化するために取り組むべきこと
個人が持つノウハウを見える形にする
まず大切なのは、社員一人ひとりが持っているノウハウを見える形にすることです。
成果を出している人が、何を見て、どのように判断し、どのように行動しているのかを整理することが重要です。
成功事例だけでなく、失敗事例も役立ちます。なぜ失敗したのか、次にどう改善したのかを共有することで、組織全体の学びになります。
ただし、すべてをマニュアルにする必要はありません。手順として整理できるものは文書化し、感覚や判断が大切なものは、事例共有やOJT、振り返りの場で伝えていくとよいでしょう。
部署を越えて知識が共有される仕組みをつくる
知識共有されてこそ価値を発揮します。
営業部門が顧客の声を知っていても、それが商品開発に伝わらなければ、商品改善にはつながりません。カスタマーサポートが顧客の不満を把握していても、それが営業やマーケティングに共有されなければ、同じ問題が繰り返されるかもしれません。
部署ごとに知識が止まってしまうと、会社全体の成長スピードは落ちます。
そのため、部署を越えて知識を共有する仕組みが必要です。たとえば、部門横断のミーティング、社内勉強会、プロジェクトの振り返り会、ナレッジ共有ツールなどが考えられます。
ただし、ツールを入れるだけでは十分ではありません。大事なのは、「何のために共有するのか」をはっきりさせることです。
情報を蓄積することが目的になると、誰も使わないデータベースができてしまいます。
知識を共有する人が評価されるようにする
知識共有は社員の善意だけに頼ると続きにくいです。
日々の仕事が忙しい中で、自分のノウハウを整理して共有するには手間がかかります。そのため、知識を共有する行動がきちんと評価される仕組みが必要です。
たとえば、改善提案を出すこと、若手を育てること、他部署にノウハウを共有することなどを人事評価に含める方法があります。
また、経営層が「知識を活かすことが重要」と明確に示すことも必要です。現場任せにするのではなく、会社としてどの知識を強みにするのかを考える必要があります。
投資すべきは「知識が回る仕組み」である
企業業績を伸ばすために、設備やシステムへの投資は必要なものです。しかし、それだけでは成果につながりません。
重要なのは、投資した資産を使いこなすための知識が社内にあるかどうかです。
新しいシステムを導入するときは、「どんな機能があるか」だけでなく、「このシステムでどの知識を蓄積するのか」「誰がその知識を使うのか」「どの業務や意思決定を改善するのか」まで考える必要があります。
人材育成も同じです。研修を実施するだけでは十分ではありません。学んだことを現場で使い、結果を振り返り、会社全体で共有する流れが必要です。
知識がうまく回る会社では、設備もシステムも人材も、より大きな成果を生みやすくなるのです。
- Bergh, D. D., D’Oria, L., Crook, T. R., & Roccapriore, A. (2025).Is knowledge really the most important strategic resource? A meta-analytic review.

