生産性を高めるために、企業が最初に取り組むべきことはなんでしょう?
それは、マネジメント・プラクティスの見直しと、社員の参加を促す仕組みづくりです。
生産性向上というと、AIやITツールの導入、業務システムの刷新などが思い浮かぶかもしれません。
しかし、同じような設備やツールを導入しても、大きな成果を出す企業もあれば、期待したほど効果が出ない企業もあります。
その違いは、企業の経営・管理の仕組みや、社員の関わり方によって生じているのです。
今回は、企業が生産性向上に取り組む際に、最初にやるべきことを説明します。
生産性を高めるためのマネジメント・プラクティス
企業の生産性を高める方法というと、新しい設備の導入、IT投資、研究開発などが思い浮かびやすいです。
しかし、それらの施策の以前の問題として、マネジメント・プラクティスを見直す必要があります。
マネジメント・プラクティスとは日本語でいうなら、その企業の経営・管理の慣行です。もっと分かりやすくいうなら、企業の定石とされている運営方法や組織風土のことです。
スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授らの調査によれば、機械設備や特許のような「ハードな技術」だけでなく、マネジメント・プラクティスの質も、企業の生産性に影響を与えていることが分かっています。
この調査では日本を含む17ヵ国の約6,000社を対象に、どのようなマネジメント・プラクティスが、生産性にプラスもしくはマイナスの影響を与えるのか分析しています。
その結果、生産性の高い企業は、現場の状況を継続的に把握し、明確な目標を持ち、その達成度を人材評価や改善活動につなげていることが分かりました。
つまり、「測る」「目標に落とし込む」「行動を促す」という慣行を組織の中に定着させる取り組みが必要ということです。
もう少し具体的に解説します。
1. モニタリング:現場の状態を継続的に見える化する
生産性を高める第一歩は、現場で何が起きているのかを正確に把握することです。
勘や経験だけに頼らず、生産量、不良率、稼働率、作業時間などを継続的に測定する必要があります。
大事なのは、データを集めることではありません。そのデータを改善につなげることです。
たとえば、不良品が増えている工程、作業時間が長くなっている業務、手戻りが多い部署を把握し、原因を分析し、具体的な対策を立てるのです。
また、モニタリングは一部の管理職だけの仕事にしてはいけません。現場のメンバーにも共有し、自分たちの仕事がどのような結果につながっているのかを理解できる状態にすることが大切です。
2. 目標設定:短期目標と長期目標をつなげる
生産性を高めるには、企業としての目標を明確にする必要があります。目標が曖昧なままでは、現場での優先順位がブレてしまい、生産性は向上しないからです。
目標を設定する際には、売上や利益といった財務目標だけでなく、品質、納期、顧客満足、作業効率、人材育成などの非財務目標も組み合わせる必要があります。
また、短期目標は長期目標と結びつけることが重要です。
たとえば、「今月の不良率を下げる」という目標は、「3年後に業界トップ水準の品質を実現する」という長期目標につながっている必要があります。
短期の取り組みが長期の成長にどう貢献するのかを示すことで、社員のモチベーションが高まり、生産性も向上しやすくなります。
3. インセンティブ:成果と行動を正しく評価する
生産性を高めるには、社員の努力や成果が適切に評価される仕組みも必要です。
高い成果を出しても正当に評価されなければ、改善への意欲は高まりません。
そのため、報酬、昇進、成長機会などを、成果や貢献に応じて設計することが重要です。
ここでいう成果とは、単なる売上だけではありません。品質改善、業務効率化、チームへの貢献、後輩育成、問題解決なども評価対象に含まれます。
成果の低い社員を放置しないことも大切です。
すぐに厳しい処分をするという意味ではなく、まずは原因を把握し、再訓練や配置転換、業務内容の見直しを行う必要があります。それでも改善が難しい場合には、退社を促すなど組織として適切な判断を行うことも求められます。
インセンティブの目的は、社員を競争させることではありません。組織が望む行動を明確にし、その行動を後押しすることです。
評価制度が目標と連動していれば、社員は何をすれば評価されるのかを理解し、生産性向上に向けた行動を取りやすくなります。
社員を参加させるべき2つのこと
ここまで説明したマネジメント・プラクティスを整えたうえで、AIやITツールなどのシステムを導入することで、より高い生産性を期待することができます。
とはいえ、システムを導入した場合でも、どのような組織設計になっているかで生産性は変わります。
ここで重要なことは、「社員の参加」です。
20年前に発表された古い調査ですが、企業の生産性についてよく言及されるUCLAのサンドラ・ブラック博士らの調査があります。
この調査では、社員が問題解決や改善のための意思決定に参加している企業ほど、生産性が高いことが分かっています。
また、非管理職のコンピュータ利用割合が高い企業も生産性が高いことが示されています。これはコンピュータそのものというより、その時代における効率化につながる最新ツールを使っていることが重要と言い換えることができます。
つまり、生産性を向上させるには、意思決定と最新ツール使った仕事に多くの社員を参加させる必要があるということです。
1. 意思決定に参加させる
社員が定期的に集まり、職場の課題について話し合っている企業ほど、生産性が高い傾向にあります。
現場の社員は、日々の業務の中で、作業の無駄、顧客対応の課題、品質上の問題、部門間の連携不足などを直接経験しています。
そのため、改善策を考えるうえで、現場の知識や気づきは非常に重要です。経営層や管理職だけで意思決定を行うのではなく、実際に業務を担う社員の意見を取り入れることで、より実態に合った改善が可能になります。
具体的には、定期的な改善ミーティング、現場からの提案制度、部門横断の課題解決チームなどを設けることが考えられます。
ただし、形式的に会議を開くだけでは十分ではありません。社員が安心して意見を出せること、出された意見が実際に検討されること、採用された改善案の結果が共有されることが重要です。
社員が意思決定に参加できる職場では、自分たちの工夫が会社の成果につながっているという実感が生まれやすくなります。
その結果、業務改善への意欲が高まり、組織全体として継続的に生産性を高める力が強くなります。
2. 新技術を使った仕事に参加させる
生産性を高めるうえでもう一つ重要なのは、多くの社員に効率化のための新技術を使わせることです。
コンピュータなどの新技術を使っている社員の割合が高い企業ほど、生産性が高くなる理由は、全体の情報処理や共有が速くなり、作業の効率が上がるからです。
また、現場の社員が新技術を活用することで、問題の発見や改善もしやすくなり、業務全体の無駄が減ることも生産性が高まる理由と考えられます。
ですから、新技術の導入と同時に、社員への研修やサポート体制を整える必要があります。
たとえば、操作方法を教えるだけでなく、日々の業務のどの場面でその技術を使えば効果があるのかを具体的に共有することが重要です。
使いにくさや現場での課題を社員から吸い上げ、ツールの運用方法を継続的に改善していくことも求められます。
新技術を「導入した」で終わらせず、「多くの社員が日常的に使っている」状態にすることが、生産性向上につながるのです。
長男が継いだ会社は生産性が低い
先に紹介したマネジメント・プラクティスに関する調査では、生産性の低い企業の特徴も分かっています。
それによると、競争が緩やかな市場に参入している企業は生産性が低い傾向にありました。生き残りが楽なため、危機感を持ちにくく効率化への動機が低いことが理由です。
しかし、こうしたぬるま湯のマネジメント・プラクティスが定着してしまうと、市場環境が変化したときに、対応できず淘汰されてしまうため、常に生産性向上の意識を持ち続けることが重要です。
また、家族経営の会社で子供、特に長男が社長を継いでいるケースでも生産性が低いことが分かっています。
これは長子というだけで、経営能力とは無関係にトップしてしまうことが原因です。
とはいえ家族経営そのものが悪いわけではありません。能力がないのに身内というだけでトップにしてしまうことが問題なのです。
企業の生産性を高める取り組みを始める前に、こうしたマイナス要素を取り除くことも重要です。
- N Bloom. J Reenen. (2010).Why Do Management Practices Differ across Firms and Countries?
- S. Black, L. Lynch. (2004).What’s Driving the New Economy?: The Benefits of Workplace Innovation.

