なぜエース社員が辞めると社内が崩壊するのか?崩壊しない企業の特徴

エース社員の退職は、企業にとって大きな不安材料です。

営業成績が突出している社員、難しい案件を一人で処理できる社員、顧客や社内から厚く信頼されている社員が辞めるとなれば、経営者や管理職は危機感を持つでしょう。

しかし、エース社員が辞めたからといって、必ずしも会社が崩壊するわけではありません。

中には影響を受けないどころか、残った社員のパフォーマンスが高まる企業もあります。

では、エース社員が辞めても持ちこたえる会社と、そこから一気に崩れていく会社は何が違うのでしょうか。

今回は、エース社員の離職が企業に与える本当の影響と、エース社員が辞めても崩壊しない組織の特徴について解説します。

エース社員が辞めても売上は落ちない

エース社員が辞めたとき、企業はどのように崩壊していくのでしょうか?

例えば営業成績の優秀な社員が辞めたとします。するとその社員が稼いでいた分の売上は減ります。

しかし、この場合、しばらくすると他の社員がそこを穴埋めして、元の売上まで回復することは珍しくありません。

なぜなら、成績優秀者だからこそ図られていた便益というものがあり、その分が残った社員にいくことで、その社員の活躍が増えるからです。

たった一人の営業マンしかおらず、その人間のつながりで全ての仕事を取っていたというケースでもない限りは、売上の心配はそれほどする必要ありませんし、それによって組織が崩壊することもありません。

むしろ「自分が会社を支えてやってるんだ」というスタンスの社員であれば、たとえトップ営業マンであっても辞めてもらったほうが良いことさえあります。

失礼な社員はそこにいるだけで、他の社員の脳の認知リソースを消費するので、全体で見るとマイナスになるからです。

エースが辞めると崩壊する本当の理由

エース社員が辞めることで会社が崩壊するのは、売上が落ちるからではありません。

大きな要因は、同じくらい優秀な他の社員の退職が連鎖することと、社内ネットワークのハブが失われることです。

退職は連鎖する

人間というのは社会的な動物ですから、常に他者を見ながら自分の身の振り方を考えます。これを「社会的情報処理理論」と言ったりします。

例えば、いつもは残業する社員が定時で帰ることが増えたり、身なりを整え始めたのを見ると、「転職活動でもしてるのかな?」と推測します。

そして、「自分もそろそろ次のキャリアを検討するべきかもしれない」と考え、同じように転職活動を開始してしまうのです。

ブラック企業でなくとも、一人の退職が他の社員に連鎖するのはこういったメカニズムによるものです。

エースが辞めると、他のエースも辞める

そしてこの現象は同じレベルの社員同士でこそ、発生しやすくなります。

ブリティッシュコロンビア大学のシマ・サジャディアニ博士らが、1,620店の小売業を調査したところ、ハイパフォーマーが辞めると、それに続いて他のハイパフォーマーも辞める確率が高くなることが分かりました。

同様にローパフォーマーが辞めると、他のローパフォーマーも辞める確率が高くなったのです。

これは、自分に似た人の離職ほど「自分に関係ある出来事」と解釈し、影響を受けやすいからです。

また、エースの穴は同じレベルの社員でなければ埋められませんから、残ったエースの負担が増えることも要因です。

社内ネットワークのハブ(中枢)が失われる

エース社員が辞めることで、社内が崩壊するのは退職が連鎖するからだけではありません。

社内ネットワークのハブ(中枢)が失われることも、大きな原因です。

エース社員は、誰に話を持っていけば良いのか、顧客が本当に気にしていることは何かなどの暗黙知を持ち、社内ネットワークのハブとなっていることが多いです。

そのため、エース社員が辞めると、残された社員は仕事の進め方そのものを失うことになるのです。

そして、調整に時間がかかり、ミスが増え、これまで自然に回っていた仕事が急に重たくなり、組織が崩壊していくのです。

成果主義の会社は残された社員のパフォーマンスが上がる

エース社員が辞めても崩壊しない企業も存在します。それはどんな企業かというと、成果主義的な昇進制度がある企業です。

香港理工大学などの研究チームが、証券会社のアナリストを対象に行った調査があります。

それによると、成果主義的な昇進制度がある企業においては、エースアナリストが退職すると、残されたアナリストのパフォーマンスが高まることが分かりました。

これは昇進のチャンスが巡ってきたことで、モチベーションが高まったことが理由です。

また、成果主義の企業ではエースがリソースを独占し、それを共有しないため他の社員は成果を上げにくくなります。

そのリソースが退職によって、他の社員に与えられることで、その社員の仕事の質が上がり成果を上げやすくなることもあります。

要するに、スター社員が社内ネットワークの中心というより、社内資源と地位を独占する存在になっている企業では、スターの離職は必ずしもマイナスにはならないということです。

むしろ、残った社員の能力発揮や社内競争の健全化につながる可能性があるのです。

人的資本に投資している企業はエース社員が辞めても崩壊しない

ウチは成果主義ではないし、そんなギスギスした職場ではないという経営者もいるでしょう。

実は、エース社員が辞めても影響を受けない企業は他にもあります。それは人的資本への投資を積極的に行っている会社です。

心理学者デボラ・ラップらが、高業績を上げている社員の離職と企業業績の関係を分析した研究があります。

それによると、採用や研修、能力開発といった人的資本への投資を積極的に行っている企業では、ROE(自己資本利益率)への悪影響が小さくなることが分かりました。

これは、人的資本への投資によって、組織全体の人材レベルが高められていため、高業績者が離職しても、残った従業員の中に代替できる人材がおり、早く穴を埋められる能力基盤がそろっていることが理由といえます。

エース社員が辞めても崩壊しない組織を作る方法

人が辞めない組織を作ることも重要ですが、辞めたい人間を引き留めるのは困難です。

そこで、企業としてはエース社員が辞めても崩壊しない組織を構築しておくことが重要です。

そのためには次のような施策が有効となります。

1. 人的資本投資を厚くする

人的資本投資とは、採用、研修・能力開発を通じて、社内に知識や技能を蓄積することです。

エース社員が辞めると、その人が持っていた専門性や経験が失われますが、人的資本投資が十分な企業では、残った社員にも一定以上の能力が育っているため、損失を吸収しやすくなります。

重要なのは、投資の対象を一部の優秀層だけに限定しないことです。

採用段階で質の高い人材を確保し、入社後も継続的に育成し、成果に応じた処遇で意欲を高めることで、組織全体の人材層が厚くなります。

2. 代替可能性を高める

エース社員の離職が深刻なのは、その人の能力だけでなく、その人に蓄積されていた暗黙知、顧客との関係、社内での調整力まで同時に失われるからです。

したがって企業は、優秀な個人に重要業務が集中しすぎないようにし、知識や役割を組織内に分散させる必要があります。

たとえば、業務手順を文書化し、顧客情報や判断基準を共有し、複数人で重要案件に関わる仕組みを作ることで、離職時の空白を小さくできます。

また、後継者候補を早めに育てておけば、突然の離職が起きても引き継ぎや補完がしやすくなります。

3. 評判の高い企業ほど油断しない

実は今回の研究では、評判の良い企業ほどエース社員が辞めたときの悪影響が大きくなることも分かっています。

評判の良い企業には優秀な人材が集まりやすく、その中のエース社員は特に大きな価値を持っているからです。そのため、彼らが辞めた場合の人的資本や社会関係資本の損失も大きくなります。

評判が良い企業は採用力があるため、「また優秀な人を採ればよい」と考えがちですが、ここに落とし穴があります。

どんなに優秀な人材でも、その企業独自の暗黙知を得るにはそれなりの時間が掛かるため、すぐに成果を出すとは限らないのです。就職偏差値の高い企業だからといって、油断してはいけません。

4. 離職率を一括で見ず、「誰が辞めているか」を管理する

今回の研究ではハイパフォーマーの離職は悪影響を及ぼしますが、ローパフォーマーの離職は影響がないことも分かっています。それどころか他の研究ではローパフォーマが辞めることで、全体の生産性が高まることも分かっています。

ですから、全体の離職率だけを見ていると、本当に危険な兆候を見逃す可能性があります。

必要なのは、離職率を業績層別に分けて把握することです。上位層の離職が増えていないか、どの部門で連鎖退職が起きているか、どのような理由で辞めているかを継続的に確認する必要があります。

高業績者の離職は、単なる人員減少ではなく、競争力の源泉が外部へ流出している可能性を意味します。

そのため、離職データは人事管理上の指標であると同時に、企業業績の先行指標として扱うべきです。

エース社員が強いのではなく、組織が弱すぎるのである

エース社員が辞めるとき、失われるのは一人分の労働力ではありません。

その人を通じてしか流れていなかった情報、判断、信頼、機会の全てです。これらが一気に途切れることで、初めて組織の偏りが見えます。

つまり、エース社員の退職は「会社がどれだけ個人に依存していたか」を測る検査として機能するのです。

これをただの損失として終わらせるのではなく、属人化を見つける機会にしなければなりません。そこで何を直すかによって、会社の本当の組織力が決まるのです。

優秀な人材を大切にすることは当然ですが、もっと重要なのは、その優秀さが組織全体に移転される仕組みを持つことです。

一人の退職で崩れる会社は、その人が強すぎるのではなく、組織が弱すぎるのです。

参考文献
  • S Sajjadiani, J Kammeyer-Mueller, et al. (2021).Who Is Leaving and Why? The Dynamics of High-Quality Human Capital Outflows.
  • Z Tian, C Zeng, et al. (2025).Peer effects of star-analysts’ departure: New evidence from China.
  • K Kwon, D E. Rupp. (2012).High-performer turnover and firm performance: The moderating role of human capital investment and firm reputation