【検証】「10年後になくなる仕事」の発表から10年が経ってどうなった?

2013年にオックスフォード大学のカール・ベネ ディクト・フレイ博士とマイケル・オズボーン博士によって、『The future of employment(雇用の未来)』という論文が発表されました。

この論文では米国の労働人口の約47%がコンピュータに代替される可能性がある、という結果が導き出されています。

この結果は世界中に衝撃を与え、現在までに2万本以上の論文で引用されています。

そして、2015年12月には野村総合研究所が、この論文の執筆者2人とともに、日本の雇用について行った共同研究の結果を発表しました。

こちらでは日本の労働人口の約49%がコンピュータに代替される可能性があるという結果となっています。

これら2つの研究結果は「10年後になくなる仕事ランキング」などと題して、各オウンドメディアやYouTubeなどでも数多く扱われました。

今年は2016年ですから「10年後になくなる仕事」が発表されたてから10年以上が経過したことになります。

そこで今回は、本当にそれらの仕事がなくなったのかを検証してみたいと思います。

10年後になくなる仕事

まずは、それぞれの10年後になくなる仕事を確認しておきましょう。

職業の後ろにあるパーセンテージはコンピュータによって自動化が可能になる確率です。この確率が高いほどなくなる可能性が高いということです。

10年後になくなる仕事・米国版(2013年)

  • テレマーケター(99%)
  • 不動産権原調査員、登記・権利調査担当者※1(99%)
  • 手縫い縫製工(99%)
  • 数学技術者(99%)
  • 保険の引受人(アンダーライター99%)(99%)
  • 時計修理工(99%)
  • 貨物取扱代理人(99%)
  • 税務申告書作成者(99%)
  • 写真現像・加工作業員(99%)
  • 口座開設担当者(99%)

※1アメリカでは「不動産を買った後で、実は別の権利者がいた」などという問題が発生したときの保障をする保険(タイトル保険)があり、それに加入する際の調査等をする人です。

10年後になくなる仕事・日本版(2015年)

  • 電車運転士(99.8%)
  • 経理事務員(99.8%)
  • 検針員(99.7%)
  • 一般事務員(99.7%)
  • 包装作業員(99.7%)
  • 路線バス運転者(99.7%)
  • 積卸作業員(99.7%)
  • こん包工(99.7%)
  • レジ係(99.7%)
  • 製本作業員(99.7%)

10年後になくなったのか?

ここからは10年が経過して、その職業がなくなったのかを見ていきたいのですが、リストを見てお分かりの通り全部まだ残っています。

なのでなくなったかどうかではなく、どれくらい代替されたかを検証していきたいと思います。(対象は日本版)

1. 電車運転士:一部代替

完全な無人運転は、2026年時点でもまだ限定的です。

都市部の新交通システムや一部路線では自動運転が実用化されていますが、一般的な鉄道路線では、踏切、ホーム上の安全確認、異常時対応、乗客対応などの課題が残っています。

JR九州の香椎線のように、運転操作の一部を自動化し、操縦免許を持たない係員が乗務する事例も出ています。

ただし、列車内や駅での安全確認、非常時の判断、避難誘導などは人が担う必要があり、電車運転士の仕事は「運転操作」から「監視・安全管理中心」へ移っていく可能性はあります。

それと、「2050年問題」といって25年後には運転士2万4000人が不足する可能性があるという統計もあります。特に地方の鉄道会社の運転士不足が深刻です。

2. 経理事務員:大幅代替、職務は変化

経理事務はかなり自動化が進んだ分野です。

クラウド会計ソフト、AI-OCR、請求書処理システム、銀行データやクレジットカード明細との自動連携により、伝票入力、仕訳、請求書の照合、経費精算などの定型作業は大きく減りました。

一方で、税務上の判断、例外的な取引の処理、社内ルールとの整合確認、監査対応、経営資料の作成などは人の確認が必要です。

そのため、単純入力だけを行う経理事務は減っていますが、経理そのものはなくならず、確認・判断・管理の比重が高まっています。

3. 検針員:大幅代替

検針員は10職種の中でも代替がかなり進んだ職種です。

電力分野ではスマートメーターの導入が進み、遠隔で使用量を把握できるようになったため、毎月現地を回ってメーターを確認する仕事は大きく減りました。

ガスや水道でも遠隔検針の導入が進んでいますが、地域や事業者によって進み方には差があります。現在残っている仕事は通信できないメーターの確認、異常値の調査、設備点検、交換作業の補助などが中心です。

つまり、従来型の「定期的に各家庭を回る検針」は縮小し、例外対応や設備管理に近い仕事へ変わっているということです。

4. 一般事務員:一部代替・雇用も残存

一般事務員に関しては多くの人が真っ先になくなる仕事と言っていましたが、予測に反して職業としては多く残っています。求人も多いです。

ただし、仕事内容はかなり変わっています。データ入力、書類作成、ファイリング、日程調整などは、業務システム、RPA、生成AI、クラウドツールによって効率化されました。

その一方で、部署間の調整、顧客や取引先とのやり取り、ミスや例外の確認、社内手続きの案内など、人間関係や状況判断を伴う仕事は残っています。

5. 包装作業員:一部代替

包装作業は工場や物流センターで自動化が進んでいます。

食品、日用品、EC向け商品などでは、自動包装機、ラベル貼付機、搬送ロボットが使われる場面が増えました。特に、形やサイズが一定の商品を大量に扱う現場では、機械化による省人化が進んでいます。

しかし、多品種少量の商品、壊れやすい品物、不定形の商品、ギフト包装等では、人の手作業が残っています。

6. 路線バス運転者:限定的・実証実験中

路線バス運転者、現在も需要が高い職業です。

自動運転バスの実証実験や限定的な商用運行は各地で行われていますが、一般道路では歩行者、違法駐車、天候、道路工事など予測しにくい状況が多く、広範囲での完全無人化はまだ難しい段階です。

また、乗客対応、車いす利用者の乗降補助、運賃トラブル、緊急時対応など、運転以外の業務もあります。

むしろ多くの地域で運転者不足が深刻で、路線維持のために人材確保が課題になっています。

7. 積卸作業員:一部代替

倉庫や物流センターを中心に省力化が進んでいます。

フォークリフト、無人搬送車、ベルトコンベア、荷役支援ロボットなどにより、人が重い荷物を一つひとつ運ぶ作業は減りつつあります。

特に、荷姿がそろっている荷物や、決まった工程で動く倉庫内作業では機械化の効果が大きいです。

一方でトラックごとの積み方、荷物の形状、現場の狭さ、配送先の条件などはばらつきが大きく、そういった場面ではまだまだ人間が必要とされています。

8. 梱包工:一部代替

こん包工も包装作業員と同じく自動化の影響を強く受けています。

商品のサイズを自動で測り、適切な箱を選び、緩衝材を入れ、ラベルを貼るような工程は、EC物流や大規模倉庫で自動化が進んでいます。定型的な商品を大量に出荷する現場では、人手を減らす効果が大きくなっています。

ただし、壊れやすい商品、高額品、形が不規則な商品、返品商品の再梱包などは、今でも人による判断が必要な状況です。

9. レジ係:大幅代替・職務が変化

レジ係は大きく変化した職種です。

セルフレジ、セミセルフレジ、キャッシュレス決済、モバイルオーダー、無人店舗型の仕組みが広がり、店員がすべての商品をスキャンして会計する場面は減りました。

スーパーやコンビニ、ドラッグストアでは、客自身が支払いを行う形式が一般的になっています。ただし、年齢確認、値引きや返品、機械トラブル、万引き防止、袋詰めの補助、顧客への案内などは人が対応しています。

「会計を処理する人」から「セルフレジ周辺を管理し、接客や問題対応を行う人」へと役割が変わってきているといえます。

10. 製本作業員:代替・市場も縮小

製本作業員は、紙媒体の需要減少と機械化の両方の影響を受けています。

書籍、雑誌、パンフレット、帳票などの印刷物は以前より減少しており、製本業界全体の市場は縮小傾向にあります。

また、折り、丁合、綴じ、断裁などの工程は機械で行うことが多くなっています。

一方で、学校教材、企業資料、同人誌、少部数出版、記念誌、特殊加工、手作業を伴う高品質な製本などの需要は残っています。

単純な手作業中心の製本は減りましたが、機械操作、品質確認、仕上げ、特殊案件への対応を行う仕事として続いているのが現状です。

「10年後もなくならない仕事」は本当になくなっていないのか?

今回、取り上げた論文では、コンピュータによって自動化が可能になる確率が低いものもリストに挙げられています。別の見方をすれば10年後もなくならない仕事です。

最も確率が低いものは以下の通りです。

これらの職業は10年以上が経った今も残っているのでしょうか?

検証するまでもなく、残っていますのでリストだけ掲載しておきます。

10年後もなくならない仕事・米国版(2013年)

  • レクリエーション療法士(0.28%)
  • 整備士・設置作業員・修理作業員の現場監督者(0.30%)
  • 緊急事態管理責任者(0.30%)
  • メンタルヘルス・薬物依存症ソーシャルワーカー(0.31%)
  • 聴覚学者/聴覚士(0.33%)
  • 作業療法士(0.35%)
  • 装具士・義肢装具士(0.35%)
  • 医療ソーシャルワーカー(0.35%)
  • 顎顔面口腔外科の医師(0.36%)
  • 消防・防火作業員の第一線監督者(0.36%)

10年後もなくならない仕事・日本版(2015年)

  • 精神科医(0.1%)
  • 国際協力専門家(0.1%)
  • 作業療法士(0.1%)
  • 言語聴覚士(0.1%)
  • 産業カウンセラー(0.2%)
  • 外科医(0.2%)
  • はり師・きゅう師(0.2%)
  • 盲・ろう・養護学校教員(0.2%)
  • メイクアップアーティスト(0.2%)
  • 小児科医(0.2%)

それでも人間の仕事は残る心理的な理由

ここまで何度も「10年後になくなる仕事」と言ってきましたが、実は論文ではそのようなことは言っていません。

これから10年~20年で自動化され得る可能性を計算しただけなのです。

それがいつの間にか「なくなる仕事」として広まる中で、元の論文の内容と異なる形で解釈されてしまったということです。

元論文の存在さえ知らないTikTokerもいたようで、「10年後になくなる仕事ランキング」という動画が2020年頃に投稿されていたりもしました。

論文発表から5年経っているのですから「5年後になくなる仕事ランキング」でなければおかしいだろう、と思うのですが…

余談ですが、仮にコンピュータによって完全に代替可能になったとしても、その職業がすぐになくならないことは、過去の歴史が証明しています。

私たちは今も紙の新聞を読んでいますし、ファックスを使っている会社もたくさんあります。

そもそも、ほとんどの仕事は現時点で、仕組みを変えれば代替可能です。それでも私たちは完全に効率化をしないのです。

なぜなら人間には、変化を避け、慣れ親しんだ現状を維持しようとする「現状維持バイアス」という心理的傾向があるからです。どんなに便利と言われても非効率な方法に固辞してしまうのです。

仮に効率化しても、そこでまた新しい仕事をつくるのです。

「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」というパーキンソンの法則のようなことが起こるのです。

ですから、あなたの職業がリストに入っているからといって、不安になる必要はないと思います。

参考文献
  • Carl Benedikt Frey, Michael A. Osborne. (2013).The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?
  • カール・ベネディクト・フレイ, マイケル A. オズボーン, 野村総合研究所. (2015).日本におけるコンピューター化と仕事の未来