経営者のストレスは半端ないものです。これは大規模な調査からも判明していることです。
そして、そのストレスのせいで、さらに頑張って働き続け余計に苦しくなります。
この状況から抜け出すには、どうすれば良いのでしょうか?
双子でも経営者になった方のストレスは半端ない
まず最初に知っておいてほしいのは、「ストレスが半端ない」と感じてしまうのは、経営者なら当然ということです。
強いストレスに押しつぶされそうになったとき、「自分は心が弱いから経営者に向いてなかったんだ」と弱気になってしまう人もいます。
しかし、経営者がこのような状況になってしまうのは、本人の特性の問題でないのです。
もちろん、落ち込みやすい性格の経営者もいますが、それだけでは説明しきれないのです。
2,082組の一卵性双生児の調査
経営者のストレスについて分析した、ベイズ・ビジネススクールのヴァンゲリス・ソウイタリス教授らの調査があります。
2,082組の一卵性双生児を、対象に行ったものです。片方が経営者で、もう片方が経営者ではない双子を、6年間にわたり追跡調査しています。
具体的には、下記の内容を聞き取っています。
- 普段から緊張していて神経質になる
- 毎日の活動は非常にきつく、ストレスが多い
- 1日の終わりには、精神的にも身体的にも完全に疲れ切っている
これらを数値化したところ、一卵性双生児であっても、経営者をやっている方のストレスレベルは、約24%も高いことが分かりました。
ストレスホルモンにも差がでる
上記は自己申告のアンケート調査ですが、身体的な反応としても、経営者のストレスは高いことが分かっています。
実は今回の調査では、コルチゾール値も、調べています。コルチゾールはストレスに反応して分泌されるホルモンで、通常は朝に高く、その後だんだん下がり、就寝前に低くなり、体が休息モードに入ります。
データを分析したところ、朝の時点でのコルチゾール値は、双子間でそれほど差がないことが分かりました。しかし、就寝前のコルチゾール値は、経営者をやっている方が高かったのです。
つまり、経営者は、日中のストレスの影響が夜まで残り、身体が「休息モード」に入りにくい状態にあるということです。
こうした状態が継続されれば、余計にストレスは溜まっていきます。
経営者のストレス源となる6つのもの
具体的には何が、経営者のストレスとなるのでしょうか?
それを調べた、ロンドン大学のユトゥ・ステファン教授の研究があります。
この研究は、過去70年近くかけて積み上げられてきた、経営者のメンタルに関する100個以上の研究を再分析したものですが、それによると、下記の要素が経営者にストレスをもたらすことが分かっています。
1. 不確実性と責任の重さ
売上を伸ばせるか、顧客を開拓できるか、資金が足りるかなど、事業には先が読みにくいことが多くあります。そうした状況の中で、経営者は判断を続けなければなりません。
しかも、その判断は自分だけでなく、従業員、家族、取引先にも影響します。
従業員なら上司や組織に責任が分散される場面でも、経営者は「自分が決めたこと」として背負う必要があります。
仕事の範囲も広く、営業、財務、人事、商品開発、顧客対応、現場管理などが絡み合います。これらが重なると、頭の中で常に複数の問題を処理し続ける状態になり、心理的な負荷が高まります。
2. 求められる役割の多さ
顧客からは早い対応を求められ、従業員からは判断を求められ、金融機関には数字を説明し、家族には生活の安定を求められる。こうした期待が同時に押し寄せることで、役割の衝突が起こります。
特に小規模企業では、経営者が現場作業と経営判断を同時に担うことが多く、頭を休める時間が少なくなり、ストレスが蓄積されていきます。
3. 会社の業績とアイデンティティが直結
売上不振や資金繰り悪化が引き起こすのは、企業存続や自分の生活に対する不安だけではありません。
事業の数字は、経営者にとって「自分の判断は正しかったのか」「自分には経営能力があるのか」という自己評価と結びつきやすいものです。
売上が落ちると、経営上の問題であると同時に、自分自身が否定されたように感じることがあります。事業が自分の努力、能力、人生の選択と深くつながっているほど、会社の業績は心理的な打撃になりやすくなります。
4. 孤独になりやすい
最終的な判断を下す立場では、不安や迷いがあっても周囲に見せにくいものです。
従業員や家族に心配をかけたくないと考え、弱音を吐きにくくなる場合もあります。
特に小さな会社や個人事業では、同じ立場で悩みを共有できる相手が少なくなりがちです。このように悩みを一人で抱え込むことで、孤独感や燃え尽きにつながることがあります。
5. 顧客・従業員・家族との葛藤
人間関係もストレスの原因になります。顧客からの要求やクレーム、従業員との対立、家族の理解不足などが重なることがあります。
また、仕事と私生活の境目があいまいになりやすい点も特徴です。休日や夜でも仕事のことを考えたり、家庭のお金と事業のお金の不安が結びついたりします。
そのため、仕事の問題が家庭に影響し、家庭の問題が仕事にも影響することがあります。
6. コントロールできない市場環境
経営者は努力で多くのことを改善できますが、市場そのものは思い通りに動きません。
景気後退、顧客需要の低下、原材料費の上昇、制度変更、災害などは、自分の努力だけでは防げません。
頑張っても売上が戻らない、良い商品を作っても需要が減る、競合が価格を下げる、外部要因で計画が崩れる。
こうした状況では、「自分でコントロールできないのに、責任は自分にある」という感覚が生まれやすく、ストレスが余計に強まります。
苦しいときはハッスルカルチャーを疑え
経営者のストレス解消法として、休息や運動、マインドフルネスなどが有効なことが複数の研究で判明しています。
しかし、それらを実践する前段階として、価値観を変えることも大切です。
起業家の世界には「ハッスルカルチャー」と呼ばれるものがあります。
昼夜問わず仕事第一で働き続けることこそが、成功につながるという文化のことです。90年代のシリコンバレーから始まった価値観です。
この言葉を知らなくとも、日本の経営者の多くがこうした価値観を持っています。
そして、会社がうまくいっていなかったり、ストレスを感じたときほど、さらに働いてそこから脱しようとするのです。
しかし、最初に紹介した双子の研究では、こうしたハッスルカルチャーに毒されて、ピンチのときに長時間働くことこそが、もっとも経営者のストレスを高めることも分かっています。
確かに会社を立ち上げたばかりの頃は、そうした働き方が必要となるときもあります。
しかし、組織が整った段階では、任せることを覚えなければ、経営者自身が会社の成長を止めるボトルネックになってしまいます。
疲労がたまっている状態では、視野が狭くなります。その状態で経営判断を下すとミスをしやすくなります。
また、経営者が頑張りすぎていると、社員が休みにくくなり、組織全体が疲弊するという弊害も生まれます。
こうのような状態に陥らないためにも、「自分が頑張れば何とかなる」という考え方から、「自分が倒れずに、組織が継続的に成果を出せる仕組みをつくる」という考え方へ変える必要があります。
まずは、休むことを怠けと捉えないことです。
休息は、仕事から逃げる行為ではありません。判断力を回復させるための重要な打ち手なのです。
- V.Souitaris, N.Nicolaou, et al. (2026).Does self-employment increase stress? A co-twin control analysis of Finnish and US twins.

