中小企業が成長するための経営戦略というと、差別化、新規事業、マーケティング強化などを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それらも重要です。というよりやって当然のことです。
しかし、調査によると、伸びている中小企業の経営戦略には、それらを実行するよりももっと前段階の準備として、必要なものがありることが分かっています。
それは「戦略的柔軟性」です。
戦略的柔軟性とは
戦略的柔軟性とは、環境が変わったときに、進む方向や手段をうまく変えられる力のことです。
たとえば、ある会社がこれまで店頭販売だけをしていたとします。ところが、お客さんがネットで買うようになってきたとしましょう。
そこでその会社が「ネット販売も始めよう」「商品を変えよう」「別の客層に売ろう」と判断して動けるなら、その会社には戦略的柔軟性があるといえます。
逆に、「昔からこのやり方だから変えない」「できる人材がいない」「一時的なブームに過ぎない」として、環境が変わっても同じ方法を続けてしまう会社は、戦略的柔軟性がないと言えます。
伸びている企業は具体的に何をしていたのか?
戦略的柔軟性のある経営戦略を採っている中小企業ほど、伸びていることは調査からも分かっています。
スウェーデンのシェブデ大学の研究チームが、700社以上の中小企業を分析し、その中から売上高と従業員数の両方で大きく成長した91社を抽出しました。
そしてこれら91社をさらに細かく分析したところ、そのうちの75社の経営戦略には、戦略的柔軟性が高いという特徴があることが分かりました。
具体的には以下のような特徴を持っていたのです。
- 新しい市場に進出する
- 商品やサービスを変える
- 顧客のニーズに合わせて事業内容を調整する
- 新しい技術や設備を導入する
- 経営者が交代して、会社の方向性を変える
- これまでとは違うビジネスモデルを試す
研究内の事例として、映画館向けのポップコーンを作っていた会社が、キャラメル味やクッキー味などを加えることで、スーパーなどの新しい販売チャネルに進出したことや、顧客の製品開発をしていた会社が、自社製品の開発に移行し、それによって国際展開が可能になったことなどが挙げられています。
(※ちなみに、残り16社の成長企業は、主にM&A(合併・買収)を主軸においた経営戦略によって伸びていました。)
戦略的柔軟性のある経営戦略を採れる企業の特徴
戦略的柔軟性のある経営戦略を採れる企業の特徴も分かっています。
具体的には以下の5つです。
1. 起業家的志向を持っている
チャンスを見つけたときに、リスクを恐れすぎずに行動する姿勢のことです。
新しい市場に進出する、商品ラインを広げる、これまでとは違う顧客層を狙う、といった判断が含まれます。
研究では経営者が「今のやり方を続けるだけではなく、別の可能性を試す」姿勢を持っている企業ほど、成長のきっかけをつかみやすいことが示されています。
2. 市場志向を持っている
顧客や競合、市場の変化をよく観察し、それに合わせて事業の方向を調整することです。
自社が作りたいものを売るのではなく、「顧客は何を求めているのか」「市場ではどの分野が伸びているのか」「競合が十分に対応できていない領域はどこか」を読み取り、それに応じて戦略を変える企業ほど、戦略的柔軟性を発揮していました。
3. イノベーション能力
新しい製品、サービス、技術、ビジネスモデルを生み出したり、既存のものを改良したりする力を指します。
調査対象となった企業の中には、既存の商品に新しい特徴を加えて別の市場に売り出した企業や、顧客の不満をもとに独自の製品を開発した企業がありました。
このように、イノベーション能力がある企業は、今ある事業を続けるだけでなく、別の用途や売り方、新たな顧客を作り出すことができます。
それにより、企業が選べる戦略の幅が広がり、環境の変化にも対応しやすくなります。
4. リーダーシップや組織文化の変化
これは特徴というよりタイミングの問題ですが、経営者の交代が戦略的柔軟性を高めるきっかけとなることも分かっています。
長く続いている中小企業では、「これまで通りでよい」という考えが強くなり、チャンスが到来しても動きにくくなることがあります。
そこに新しい経営者や後継者が入ると、会社の強みを見直し、成長に向けた新しい経営戦略を打ち出すきっかけになります。
5. 技術とデジタル化への対応
時代に合った技術やデジタル化への対応は、企業が新しい市場に出たり、サービスの提供方法を変えたりするうえで重要な手段になります。
たとえば、オンライン販売を早くから取り入れた企業は、店舗だけに依存せず、より広い顧客に商品を届けることができます。
※ただし、技術やデジタル化の有効性は業種によって差があるというデータがあります。ITや製造業のように技術の影響が大きい業種では有効ですが、すべての中小企業に同じ程度で効果があるわけではありません。自社の業種や顧客に合った形で活用することが大切です。
なぜ戦略的柔軟性を高められないのか?
企業が戦略的柔軟性を高められない要因も分かっています。
それは有能な人材の不足です。
研究者らが多くの企業の経営者にインタビューしたところ、新しい市場機会や成長の可能性を認識していたにもかかわらず、それを実行できる人材を十分に確保できないという問題に直面していることが分かりました。
特に中小企業は、大企業に比べて採用力や教育資源が限られているため、必要な技能を持つ人材の不足が、戦略の変更や新規事業展開を直接的に制限してしまうのです。
中小企業が成長できる経営戦略を実行する方法
中小企業が戦略的柔軟性を高め、成長できる経営戦略を実行するためにはどうすれば良いのでしょうか?
固定化している部分を見つける
まず「何をすれば柔軟になれるか」よりも、「何が自社の変化を妨げているか」を見つける必要があります。
特定顧客への依存、特定社員へのノウハウ集中、既存設備の用途の狭さ、経営者だけに判断が集中する状態などがあると、新しい機会が見えても実行に移しにくくなります。
柔軟性とは雰囲気ではなく、変化に対応できる経営構造の問題なのです。そこを見直さなければなりません。
人材制約を戦略に組み込む
人材難の中小企業において、特に重要なのは、人材を戦略の後工程として扱わないことです。
新しい市場に進出する、製品を変える、販路を広げるといった戦略を描いても、それを実行できる人材がいなければ成長にはつながりません。
したがって、戦略を立てる段階で「この戦略に必要な能力は何か」「社内にある能力で実行できるか」「不足分は育成、採用、外部活用、提携、業務設計の変更のどれで補うか」を考える必要があります。
採用できるか分からない人材を前提に大きな戦略を作るのではなく、現在の人材基盤から実行可能な形に戦略を調整することが重要です。
余剰資源を小さな実験に使う
戦略的柔軟性を高めるには、資金、人員、時間、設備をすべて既存業務に使い切らないことです。
余剰資源が中小企業の戦略的柔軟性を支える要因として働くことが分かっています。これは、単に余裕資金を持つという意味ではなく、新しい機会が生じたときに試せる余力を持つという意味です。
たとえば、新規顧客への試験提案、製品仕様の小さな変更、新しい販売チャネルの試行、外部人材の短期活用などに使える余力があれば、企業は一気に大きな賭けをしなくても選択肢を広げられます。
市場情報を経営判断に結びつける
顧客の声を聞くだけでは不十分です。
顧客の不満、競合の弱点、用途の変化、業界の隙間を、経営判断に変換しなければなりません。
そのためには、営業や現場が得た情報を経営者だけで抱え込まず、製品開発、採用、設備投資、販路開拓の判断に反映させる仕組みが必要です。
市場を見る力そのものよりも、市場情報をもとに会社の動き方を変える力が、戦略的柔軟性につながります。
経営者が選択肢を増やす設計をする
中小企業が戦略的柔軟性を高めて成長するには、経営者が「今の事業をどう伸ばすか」だけでなく、「次に取れる手をどう増やすか」を考える必要があります。
既存の技術を別用途に使えるか、既存顧客以外にも売れるか、社員が複数の役割を担えるかを考えることで、会社の選択肢は増えます。
つまり、中小企業に必要な経営戦略は、成長機会を一つ選んで突き進むだけの戦略ではありません。
人材、資源、市場情報、外部連携を組み合わせながら、複数の可能性を試し、うまくいく方向に資源を寄せていく戦略です。
戦略的柔軟性を高めるとは、変化に場当たり的に対応することではなく、変化が起きたときに動ける会社を前もって作ることだといえます。
- D Brozovic, C Jansson, B Boers. (2023).Strategic flexibility and growth of small and medium-sized enterprises: a study of enablers and barriers.

