ラストマンシップとは?社員の「しんがり」精神を高め業績アップする方法

会社の業績は社員の「心持ち」で決まります。これは、あらゆる調査データからも分かっていることです。

同じ予算、同じ設備、同じ顧客であっても、社員がどんな気持ちで働いているかによって、売上や利益といった数字で表せるデータまで変わるのです。

では、企業の業績を高めるために、社員にどんな心を持ってもらえば良いのでしょうか?

それは「ラストマンシップ」です。

ラストマンシップとは

ラストマンシップとは、「自分の後ろには誰もいない、自分が最後の砦である」という心構えです。

具体的には、その仕事の最終責任は自分にある、自分がリーダーシップをとって主体的に進めるという気持ちです。

社員がラストマンシップを持つことで、会社には、イノベーションが起こりやすい、ミスが減り品質が上がる、お客様から信頼される、チームも強くなるといったメリットがもたらされます。

ラストマンの由来は日立製作所の会長?

ラストマンシップという言葉は、英語圏から入ってきた言葉ではなく、和製英語といわれています。

由来はハッキリしていませんが、一般に広まったのは日立製作所の元会長である川村隆さんの著書『ザ・ラストマン 日立グループのV字回復を導いた「やり抜く力」』ではないかと思います。

この本の中で、川村さんが設計課長に昇進したとき、当時の工場長(後の日立製作所副社長)だった綿森力さんから次のような言葉を言われたエピソードが書かれています。

「この工場が沈むときが来たら、君たちは先に船を降りろ。それを見届けてから、オレはこの窓を蹴破って飛び降りる。それがラストマンだ」

誰かが昇進したときに、「これからは、お前がこの課のラストマンなんだぞ。お前が責任を取る意識を持ってないと、すべてが始まらない。部下に仕事をやってもらうのだとしても、最終責任はお前が取れ。最終的な意思決定はお前がやるんだぞ」というのが、綿森さん流の激励の仕方でした。

この言葉を聞いて以来、川村さんはラストマンであろうと努めてきた、と述べています。

日本語で言い換えるなら「しんがり」

ラストマンを日本語で言い換えるなら、「しんがり(殿)」が該当するのではないでしょうか?

しんがりとは、戦闘で退散するときに、自軍の最後尾にいて、追いかけてくる敵と戦い、仲間を逃がす役割を担う者のことです。

1997年に自主廃業した山一證券で、最後まで会社に残り、無給で不正の真相究明と清算業務を続けた社員の方々がいます。

この社員の方々を題材にして、ノンフィクション作家の清武英利さんが書いた本のタイトルは『しんがり 山一證券 最後の12人』でした。

まさに、ピッタリのタイトルではないでしょうか。

ラストマンシップと企業の業績は関係する

ラストマンシップという言葉は和製英語ですから、欧米で使われることは滅多にありません。

しかし、それと同じような概念はたくさんあります。有名なものとして「Psychological Ownership(心理的所有感)」が挙げられます。

これは実際の法律的な権利とは無関係に、組織や仕事をいかに「自分ごと」として、感じられるかというものです。

心理的所有感は、「この仕事は自分が主導する」「最後は自分が責任を取る」といった感覚から構成されるものですから、意味するところはラストマンシップと同じといえます。

心理的所有感が高いほど、企業業績も良くなる

ベルン大学のフィリップ・ジーガー教授らが、心理的所有感と企業業績の関係を検証した調査があります。

対象となったのは、生産、物流、人事、営業、マーケティング、研究開発などあらゆる部門で働いている社員と、それぞれの企業です。

これによると、社員の心理的所有感が高いほど、売上や利益、市場シェアといった企業業績も良くなることが分かっています。

心理的所有感が生み出すサイクル

なぜ、心理的所有感が高いほど会社の業績が良くなるのかというと、以下のサイクルが生まれるからです。

  1. 会社や仕事を自分のものだと感じる
  2. 会社を良くしたいと思う
  3. 新しいアイデアを出す、改善する、周りも助ける
  4. 会社の売上・利益・成長につながる

一言でいうなら、自分のものは少しでも良くしたいと思い、それが行動につながりやすいからということです。

社員のラストマンシップを高める方法

社員のラストマンシップが、企業の業績にプラスの効果をもたらすことが、お分かりいただけたかと思います。

では、社員のラストマンシップを高めるには、どうすれば良いのでしょうか?

それには、会社への愛着を求めるのではなく、従業員が仕事や組織に対してコントロール感、理解、自己投入の感覚を持てる環境を整えることが重要です。

具体的な施策について説明します。

1. 裁量と自律性を高める

ラストマンシップを高めるには、社員に一定の裁量権を持たせることが重要です。

やり方、優先順位、改善方法を自分で考えられる余地があると、仕事を「与えられた作業」ではなく「自分が責任を持って進める対象」として捉えやすくなります。

そのため、細かく指示を出しすぎるのではなく、目標や期待成果を明確にしたうえで、達成方法については現場に任せることが有効です。

特に、業務改善、顧客対応、チーム内の役割分担などで裁量権を広げると、ラストマンシップの形成につながります。

2. 意思決定への参加機会を増やす

人間は、組織や仕事に関する意思決定に参加できると、自分の意見や判断が反映されているという感覚を持ちます。これは、組織に対する当事者意識を高める重要な要素です。

たとえば、目標設定、業務プロセスの見直し、新しい制度の導入、職場環境の改善などについて、社員から意見を集めるだけでなく、実際の決定や実行にも関わってもらうことが効果的です。

形式的なアンケートで終わらせず、提案がどのように検討され、何が採用されたのかを共有することで、参加の実感はさらに高まります。

3. 仕事や組織への理解を深める

ラストマンシップは、対象をよく知ることで強まりやすくなります。

自社の事業、顧客、収益構造、組織の方針、仕事の意味を深く理解しているほど、「この組織は自分のものである」という感覚を持ちやすくなります。

そのためには、経営情報や事業方針をわかりやすく共有することが大切です。数字や方針を伝えるだけでなく、自分の仕事が顧客や組織全体にどのように貢献しているのかを説明することで、社員は仕事への意味づけをしやすくなります。

オンボーディングや定期的な社内共有会も有効な手段です。

4. エンパワリング・リーダーシップを実践する

上司の関わり方も、ラストマンシップに大きく影響します。

信頼を示し、権限を委ね、仕事の意味を伝え、挑戦を支援するリーダーは、部下の当事者意識を高めます。

一方で、過度な監視や細かな統制は、主体性を弱める可能性があります。

上司は、すべてを管理するのではなく、方向性を示し、必要な情報や資源を提供し、部下が自分で判断できる状態を支援する役割を担うことが望まれます。

5. 成果や改善への貢献を可視化する

自分の行動によって組織やチームに変化を生み出せていると感じると、ラストマンシップは強まりやすくなります。

そのためには、個人やチームの貢献を可視化し、適切にフィードバックすることが重要です。

たとえば、業務改善による時間短縮、顧客満足度の向上、売上や品質への貢献などを具体的に共有することで、「自分の仕事が組織を動かしている」と実感できます。

評価や称賛も、単なる結果だけでなく、工夫や主体的な取り組みに焦点を当てると効果的です。

トルーマン大統領の机のプレートに書かれていたこと

アメリカのトルーマン大統領は机に、「The buck stops here(全ての責任はここで止まる=全責任を自分が負う)」と書いたプレートを置いていたそうです。

このような、ラストマンシップは、通常、組織のトップにしか芽生えにくいものです。

社長は最終的に誰にも相談できず、決断と責任を負わなければなりませんが、副社長は社長に相談できることを考えればわかりやすいかと思います。

ですから経営者からすると、社員にラストマンシップを持ってもらうのは難しいのではないか、と思いってしまうかもしれません。

しかし、会社全体に対するラストマンシップを持たなくとも、各部署やプロジェクトに対するラストマンシップを社員に持ってもらうことは可能です。

そのためには、まず組織の仕組みと風土を変えることから始めましょう。

参考文献
  • 川村隆. (2015).ザ・ラストマン 日立グループのV字回復を導いた「やり抜く力」
  • 清武英利. (2013).しんがり 山一證券 最後の12人
  • P Sieger, T Zellweger, K Aquino. (2013).Turning Agents into Psychological Principals: Aligning Interests of Non-Owners through Psychological Ownership.