なぜアートは高級ブランドを売れなくするのか?

ラグジュアリーブランドの中には、ルイ・ヴィトンのようにアートギャラリーを併設する店舗を構えているところもあります。

アートもブランドも、人間の美的な感性に訴えかけるので、完璧な組み合わせのように見えます。

高級品を扱う顧客のホームページを制作する際にも、アートっぽさを前面に押し出したデザインを要望されることがあります。

しかし、アート(芸術)はブランド品の販売には逆効果となるかもしれません。

実はアートを見た後の人間は、高級品に対する購買意欲を低下させることが研究で分かっているのです。

ラグジュアリーブランドを選ぶ客が半分になってしまうショッピングモール

アジアのビジネススクールではNo.1とされる、CEIBS(中欧国際工商学院)のヤジン・ウォン教授らのユニークな実験があります。

この実験では、ショッピングモールの買い物客に「GAP」のような手頃なブランドと、「VanCleef & Arpels」のような高級ブランドの販促物の、どちらが欲しいかを選択させました。

2つの異なるショッピングモールで実験を行ったのですが、片方では約50%がラグジュアリーブランドを選んだのに対し、もう片方では25%しか選びませんでした。

なぜこのような違いが出たかというと、アート作品が関係していたのです。

実は、高級ブランドの販促物が25%しか選ばれなかった方は「パークビューグリーン」という、アート作品が至ることろに展示してあるショッピングモールだったのです。

実験を行った2つのモールは入居テナントの構成は似ており、客層の差もないと考えられるため、アート作品がブランドへの欲求を低下させたと考えられます。

この効果を裏付ける実験も行っています。

それによると、同じ写真でもアート作品として見せた場合と、学術的な資料として見せた場合では、その後にブランド品の評価をさせたときに差が出ることが分かったのです。

アート作品として見せた後のほうが、ブランド品に対する評価は下がるのです。

アート作品が世俗的なことを気にしない精神状態を誘発

なぜアート作品を見ると、高級ブランドへの欲求が低下するのでしょうか?

それは、アート作品が平凡なことや、世俗的なことを気にしない精神状態を誘発するからです。心理学では「自己超越」の状態などといいます。

この状態になると「他人からどう思われるか?」ということも気にしなくなるのです。

高級なブランド品というのは、ステータスシンボルとしての役割を持っているため、他人からどう思われるかを気にしなくなると「欲しい」という気持ちが低減します。

ブランドへの評価を下げる条件

とはいえ、アートが好きな人はそういったデザインのホームページにしたいと思うこともあるでしょうし、実店舗に絵画を飾りたいと思うこともあるでしょう。

そんな時はどうすれば良いでしょうか?

それは、アートをアートと意識させないことです。もしくは販売する商品を、アートの一つであると思わせることです。

アートとして鑑賞しなければ、ブランド品の評価を下げない

今回の実験では、アート作品がブランド品への評価を下げる条件も特定しています。

それによると、アートでも、アートとして鑑賞しなければ、ブランド品の評価を下げないことが分かっています。

ゴッホの『星月夜』を「線や色を詳細に評価しながら見てください」と言われた場合には、アートの鑑賞という意識が薄れるため、その後にブランドの評価をしても価値を下げないのです。

ステータスシンボルとして意識しなければブランドに対する評価を下げない

また、ブランドをステータスシンボルとして意識していないときにも、ブランドに対する評価を下げないことが分かっています。

アート作品を鑑賞した後に「あなたのステータスを高める商品」と書かれたブランド広告を見せられたときは評価を下げましたが、同じ商品でも「芸術的で創造的な商品」と書かれた広告を見せられたときは評価を下げなかったのです。

芸術家とのコラボはOK

つまり、アートに対する「アート作品としての認識」と、商品に対する「ステータスシンボルとしての認識」という2つの条件が揃ったときに購買意欲が低減するということです。

ラグジュアリーブランドが芸術家とコラボして、アートがプリントされた商品を出したりしますが、そのような商品は、ブランドへの欲求を下げないということです。

なぜなら、そこにプリントされた作品をアートとは認識しないため、自己超越の心理状態にならないからです。

アートギャラリーから離れた区画に出店を

東京では銀座や青山に高級ブランド店が集まっていますが、このエリアはアートギャラリーも多いです。

知らないうちに、顧客の購買意欲を低下させているかもしれません。とはいえ高級エリアに店を構えることは、そのリスクを上回るマーケティング上のメリットがあるでしょうが…

モールに出店する際などは、アートギャラリーからは離れた区画を選んだほうが良いかもしれません。

逆にブランドで衝動買いをし過ぎてしまうという人は、アートギャラリーに立ち寄ってから買い物に行くと良いのかもしれません。

絵画を衝動買いしてしまう可能性はありますが…

参考文献
  • Yajin Wang, Alison Jing Xu, Ying Zhang. (2022).L’Art Pour l’Art: Experiencing Art Reduces the Desire for Luxury Goods.