売上が上がらないとき、多くの企業は「もっと顧客に寄り添うべき」と考えます。
顧客の声を聞き、要望に応え、丁寧に対応することは、営業において重要なことです。顧客を理解しないまま自社都合で売り込んでも、信頼は得られません。
しかし、顧客第一を徹底しているはずなのに、なぜか売上が伸びない、顧客からの評価は悪くないのに、数字には結びつかない、営業担当者は忙しく動いているのに、成果が思うように出ない…
このよなことが起きているなら、問題は「顧客志向が足りないこと」ではなく、「顧客志向を高めすぎていること」にあるかもしれません。
顧客志向は、売上を押し上げることもあれば、逆に下げてしまうこともあるのです。
この記事では、営業担当者の顧客志向と売上成果の関係を分析した研究をもとに、「なぜ顧客に尽くしているのに売上が伸びないのか」を考えていきます。
よくある売上が上がらない理由
本題の前に、売上が上がらない組織によくある特徴を見ておきましょう。
1.顧客の課題ではなく、自社の商品を起点に考えている
自社の商品やサービスを売ることに意識が向きすぎて、顧客が本当に困っていることを十分に理解できていない状態です。顧客の課題と提供価値がずれているため、提案しても必要性を感じてもらえず、売れないのです。
2. 強みが曖昧で、選ばれる理由がない
品質や対応力を強みとしていても、競合との違いが伝わらなければ、顧客には似たような会社に見えます。そのため価格だけで比較され、安売りすることになるのです。
3. 営業活動が「量」で管理されている
売上が下がると、訪問件数、架電数、商談数を増やそうとする会社は少なくありません。しかし、量だけを増やしても、商談の質が低ければ成果は伸びません。
4. 既存顧客への取り組みが弱い
売上拡大というと、多くの経営者は新規顧客の獲得を考えます。しかし、既存顧客への提案不足が売上停滞の原因になっているケースもあります。
既存顧客は、すでに自社の商品やサービスを知っています。信頼関係もあります。それにもかかわらず、納品後や導入後の接点が薄く、追加提案や継続契約につながっていない会社は多いです。
5. 経営者の判断が現場の実態とずれている
売上が上がらない原因は、現場だけにあるとは限りません。むしろ、経営判断の遅れやズレが売上停滞を招いていることもあります。
たとえば、市場が変化しているのに、過去の成功パターンを続けていたり、顧客層が変わっているのに、商品設計を見直していなければ、売上を伸ばし続けることは不可能です。
6. 組織内で売上責任が分断されている
売上は営業部門だけの責任だと思われがちです。しかし実際には、商品開発、マーケティング、カスタマーサポート、管理部門も売上に影響しています。
売上が停滞している会社では、部門ごとの最適化ばかり追い求め、全体としての成果が出にくくなっているパターンが多いです。
顧客志向と売上の関係
ここまでの説明は、経営者であれば言われなくとも分かっていることかもしれません。
すでに対応していることもあるでしょう。しかし、それでも売上が上がらないことは多々あります。
このような場合に、顧客志向が強くなりすぎている可能性があるのです。
売上を伸ばすためには、顧客の役に立つことが重要です。しかし、この「お客様のために」という思考が売上を伸びなくなしているのです。
そして、そのマイナス効果に気づいておらず、良いことをしているという錯覚に陥っていることさえあります。
売上が停滞している会社の営業活動を見ていると、このパターンに陥っていることが多いです。
売上を伸びなくする原因は顧客志向
マンハイム大学のクリスティアン・ホンブルクらが、顧客志向と売上の関係を分析した調査があります。
ここでいう顧客志向とは、顧客の困りごとの把握、解決策の提案、価格や条件の譲歩、個別対応の丁寧さ、意見が食い違ったときの落としどころの設定などのことです。
これらのデータを分析したところ、顧客志向の強さと、顧客満足度は右肩上がりに相関していました。
つまり、営業担当が顧客のために一生懸命になるほど、顧客からの印象は良くなるということです。
しかし、売上に関しては、右肩上がりではなく、逆U字でした。
顧客志向が弱すぎると売上は伸びませんが、強すぎても伸びなかったのです。
なぜ、お客様のために一生懸命にやると逆効果なのか
なぜ、お客様のために一生懸命にやっているのに、売上が伸びなくなるのでしょうか?
それはリソースの配分を間違えるからです。
たとえば、顧客の課題をまったく聞いていなかった営業が、きちんとヒアリングするようになれば、提案の質は大きく改善します。
しかし、すでに十分に顧客理解ができている状態で、さらに細かな要望まで拾い続けても、顧客が感じる価値はあまり増えません。
そこにリソースを割いても、売上増加にはつながらないということです。
また、顧客の要望を細かく聞く、資料を何度も直す、社内調整をするといった個別対応は、顧客には喜ばれますが、営業担当者の時間を大量に使います。
その結果、他の見込み客への接触、商談創出、クロージングに使える時間が減ってしまうのです。
つまり、顧客志向が強くなりすぎると、リソースの割り振り先を間違え、機会を失うため、売上が頭打ちになるということです。
売上が上がらないときに見るべき3つのポイント
以上のことからも分かるように、売上が上がらないときに見るべきは、営業活動の質と配分です。
具体的には以下の3つのポイントを確認する必要があります。
1. 売上につながる顧客に時間を使っているか
営業担当者が忙しく動いていても、小口顧客や低収益顧客への対応が中心では売上が伸びません。
重要なのは、すべての顧客に同じように丁寧に対応することではありません。追加発注の可能性がある顧客、単価を上げられる顧客、長期契約につながる顧客に、十分な時間を使うことです。
営業活動は、顧客ごとの売上規模、利益率、成長可能性、受注確度に応じて配分する必要があります。
2. 個別対応が利益を生んでいるか
顧客ごとの特別対応は、差別化や受注につながることがあります。一方で、準備、社内調整、カスタマイズ、運用対応にはコストがかかります。
それによって、新規開拓や既存顧客からの追加注文を得るために使うべきリソースが失われることがあります。
「きめ細かく対応できているか」だけではなく、「その対応に見合う利益があるか」まで見なければなりません。
単価向上、継続率、追加受注につながらない個別対応は、見直す必要があります。
3. 顧客満足を売上に変換できているか
顧客満足は重要ですが、それだけで売上が伸びるわけではありません。
満足している顧客に対して、追加提案をしているか、上位プランや関連サービスを提案しているか、紹介を依頼しているか。
こうした行動がなければ、顧客満足はただの「良い関係」で終わってしまいます。
顧客から感謝されることは大切です。しかし、その満足が追加購入、継続、価格受容につながっているかまで確認する必要があります。
- C Homburg homburg, M Müller, M Klarmann. (2011).When Should the Customer Really be King? On the Optimum Level of Salesperson Customer Orientation in Sales Encounters.

